過去の研究は、活火山地域における大規模な氷の融解と、噴火の増加との間に因果関係がある可能性を示していた。アイスランドの火山系は、島を覆っていた氷冠が消滅したときに火山活動が増えた歴史がある。氷が溶けた後の平均噴火頻度は最大100倍に増加したことがわかっている。また、氷冠が厚かったときは噴火の規模も小さかった。
約1万8000年前に終わった最終氷期における、気温上昇に解氷と火山活動の関係を理解することは、現在の地球温暖化にともなって起こることに関する重要な問題を提起する。
「火山噴火の頻度が気候温暖化によって増加するかどうか現時点ではわかっていません」と同研究の筆頭著者であるスイス連邦工科大学チューリッヒ校のジェンホイ・ドゥ(杜江辉)博士はいう。彼はオレゴン州立大学地球・海洋大気科学学部の博士課程大学院生として研究を実施した。
「しかし、環太平洋火山帯の火山に残っている氷河が急速に溶けていることはわかっているので、この氷の消失を将来の噴火予測に取り入れることは重要です。噴火は人口密集地域に危険をもたらすだけでなく、北太平洋に出現している低酸素デッドゾーン(死の海域)を悪化させる可能性があります」火山灰はプランクトンにとって重要な微量栄養素、特に鉄分を含んでおり、水の華(藻類の大量発生)や低酸素状況を引き起こすきっかけになる。
同研究の発見は気候、氷河の後退、火山活動、生物生産力、海洋の脱酸素化などとりまく系統的な関係を指摘していると論文の共著者でオレゴン州立大学の海洋学者・古気候学者であるアラン・ミックスは述べた。
「日頃、私たちが別々だと考えていた地球の部分同士のこうした驚くべき繋がりは、システム全体がどれほど繋がり合っているかを強調するものです。環境問題、たとえば現在進行中の気候危機を解決するためには、個々の部分だけでなく、繋がったシステム全体に目を向ける広い視野が必要です」と彼は説明した。
かつて北米の大部分を覆っていたコルディエラ氷床の後退と火山活動のタイミングとの関係は、その地域の火山を覆っていた氷の急激な融解が火山活動の増加を誘発したことを示唆しているとミックスはいう。
「火山にとって氷冠は、シャンパンボトルのコルクのようなものです。氷のコルクを抜けば、ドカーンと噴火が始まります」と説明する。
過去の研究は、この地域の堆積物に火山灰層がいくつかあることを示しているが、アラスカ湾の深海底堆積物コアを用いたドゥ博士の化学分析は、肉眼では見えていなかった火山灰の痕跡をさらに発見した。
ドゥ博士は、最終氷河期に氷に覆われていた地域の火山噴火と、氷に覆われていなかった地域の火山噴火を分類し比較した。
「氷河が存在した地域における、温暖期の噴火と氷河後退の間には特徴的パターンが数多く見られましたが、氷に覆われていない地域、特に北米西部における噴火頻度の変化はごくわずかでした」とドゥ博士は述べた。「これは温暖化と氷河後退に対する火山の反応を裏づける有力な証拠です」
論文『Volcanic trigger of ocean deoxygenation during Cordilleran ice sheet retreat(コルディエラ氷床後退時における火山活動による海洋脱酸素の誘発)』はNature (2022)に掲載された。資料はオレゴン州立大学から提供された。
(forbes.com 原文)