セルジュ・スクリャレンコによると、米ニューヨークを拠点とする自身の非営利組織「American Ukrainian Aid Foundation」はウクライナの情報機関に多用途のSDRラジオキットを多数供給している。
「このキットの優れた点は、ソフトウェアでシステム機能を変更できるため、現場でさまざまな用途に合わせて再プログラムできることだ」とスクリャレンコは話す。
従来の無線機では、アンテナからの信号は専用のハードウェア(増幅器、フィルター、変調器、復調器など)で処理される。つまり各無線機は5G携帯電話、AMラジオ、デジタルテレビ、Wi-Fiなど、特定の無線信号に特化している。SDRでは専用のハードウェアはアンテナだけだ。信号はすべてコンピュータでデジタル処理される。SDRはプログラミングを変更するだけで携帯電話、ラジオ、Bluetoothなど、決められたあらゆる波形の信号を選ぶことができる。つまり1台で何でもできる。
理論的にはシンプルなSDRだが、当初は膨大な計算能力が必要で、2010年代に米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)の後押しがあって実現に至った。DARPAはSDRの開発に研究資金を投入し続けており、米軍需製品メーカーRaytheon(レイセオン)は2021年、標準的なIntel(インテル)のハードウェアを使用して高度なシステム・オン・チップ(SoC)のデモを行った。
現在、オープンソースのSDRキットが一般消費者向けに販売されており、ウクライナはこれを有効に活用している。
「SDRは首尾一貫して動作する5チャンネルの基本的な受信機だ。信号の解析は一般的に非常に機密性が高いが、我々はこれらの無線機を『フォックスハント』、つまり方向探知という基本的な目的のために送っている。原則的には偽の無線通信を聞き取る」とスクリャレンコは話す。
フォックスハントとは、隠された無線送信機の場所を探すハムラジオオペレーターのコンテストで、通常は単なる楽しみで行う。しかし、ウクライナの場合は真剣勝負だ。
アナログの方向探知は、基本的に指向性アンテナを回転させて最も強い信号を見つける。複数のアンテナを使ったり、異なる場所に移動したりして三角測量で発信源を突き止めることができる。一方、デジタル方向探知はより高度で、複数のチャンネルの信号の位相差を利用する。