エンタメ業界の重鎮でもあるタンは、中国と米国の架け橋となるキャリアを築いてきたが、SHEINでは大きな課題に直面するかもしれない。SHEINの評価額は、1000億ドル(約14兆8000億円)に急騰したが、米中の対立に巻き込まれるリスクがあり、デザインの盗用や労働法の違反、大量に廃棄される衣類が環境に与えるダメージなどへの批判が高まる恐れがある。
タンは、時価総額で中国最大の証券会社である中信証券 (Citic証券)がベア・スターンズに投資するための頓挫した取引や、大連万達グループが26億ドルを投じた米映画館チェーンAMCの買収などの取引を手がけた経験を持ち、今年はじめにSHEINに入社した。
フォーブスの取材によると、タンは1年以上前から同社の共同創業者でCEOのクリス・シューのアドバイザーを務めている。彼は、セコイア・キャピタル・チャイナの創業パートナーであるニール・シェンからSHEINの幹部を紹介されたとされる。
タンは、今年240億ドル近い収益を上げる勢いのSHEINのファストファッション事業を、投資家にとってより魅力的なものにするための取り組みの一環として、同社に参加した。
SHEIN のアプリは、世界中で最もダウンロードされたアプリのひとつとなり、米国ではZ世代に人気となっている。同社は、データ主導のビジネスモデルにより、ファストファッション大手のインデックスやH&Mの主要な競合となった。
SHEINは、今年に入り連邦政府のロビイストを2人採用し、ワシントンに米国本社を建設した。また、新たにESG担当に就任したアダム・ウィンストンは、同社のビジネスモデルが既存の小売業者よりも環境に与えるダメージが少ないと主張している。
SHEINはまた、中国での事業展開を縮小する動きも見せており、シンガポールの企業を持ち株会社に指名し、共同創業者のシューはシンガポールの永住権を取得したとロイターは報じている。同社は、中国では衣類の販売を行っていないものの、サプライチェーンの大部分を中国に置いており、1万人のスタッフの大半も、中国に居住している。
中国政府の監視を避けられるか?
SHEINの上場は、中国の配車サービス企業Didiが2021年に700億ドルの評価額で上場して以来で最大規模のものとなる。Didiは、中国の規制当局からの調査に直面し、上場からわずか11カ月後にニューヨーク証券取引所で上場を廃止していた。
ロイターによると、SHEINはニューヨークでの上場を予定している。同社は、他のハイテク企業と比べて中国国内での認知度が低い輸出企業であるため、Didiやアリババ、テンセントなどに向けられたような監視の目を避けることができるかもしれない。しかし、今月初めに習近平体制が3期目に突入したことで、中国のテック企業に対する投資家の関心はさらに冷え込んでいる。
また、新疆ウイグル自治区で生産された綿花の輸入を禁止する米国の規則が、投資家の懸念材料になるかもしれないと、一部のアナリストは述べている。
(forbes.com 原文)