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2022.11.06 17:00

旅先の店が「胃袋の故郷」に|中山亮太郎×小山薫堂スペシャル対談(後編)

Forbes JAPAN編集部

東京blank物語 vol.27

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、マクアケの中山亮太郎さんが訪れました。スペシャル対談第5回(後編)。

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中山亮太郎(以下、中山): 薫堂さんは日本最大級の若手料理人コンペティション「RED U-35」のプロデュースや、京都の老舗料亭の経営をしていますが、そもそも「食」に目覚めたきっかけは何ですか?

小山薫堂(以下、小山): ……あるとしたら、大学時代に女の子をデートで喜ばせるためにおいしい店に行きたいと思ったことかな(笑)。それから構成作家になって『料理の鉄人』を手がけたり、雑誌『dancyu』で「一食入魂」という連載をしたりして、だんだんとって感じですね。

中山:『料理の鉄人』といえば、テレビも漫画もアニメも、まるでカンブリア紀のように「料理」を包括した時期がありましたよね。あのころ料理人に憧れて目指した人が、いまトップシェフとして活躍しているように感じます。

小山:おそらく。ただ、『料理の鉄人』は“ショー”なので、演出側がテレビ的な視点で出演者を選ばざるを得なかった。もちろん料理の実力や志の高さも重要視していましたが、結局は華のある人がどうしても目立つし、スター化してしまう。その反省がずっとあって、「RED U-35」を始めたんです。

中山:つまり、「料理の実力のある人がスターになっていくこと」を目指したと。

小山:ええ。来年が10回目なのですが、ようやく受賞者の皆さんが料理界のスターとして花を開かせている手応えを感じています。マクアケと協業した「未来のための一皿」の参加者である8名の若手料理人も、「RED U-35」で受賞したからこそ、スポットライトが当たったという人が多いかと。

中山:確かに、岩手だったり宮崎だったり、驚くほど地域が散らばっていました。なぜ地方にあれほど実力のある料理人が大勢いるのでしょう?

小山:食材の力でしょうね。生産者や土地への愛情をもっている人が増えている。環境の変化もあるかな。本当においしいものを提供できれば、そこに人が集まってくる時代になり、若き料理人が地方に可能性を感じられるのではないでしょうか。あとは単純に東京が高すぎるというのもあるかもしれない。

中山:まさに地方だと東京よりリーズナブルな価格になって、行きやすかったりしますね。僕も札幌にある「ル・ミュゼ」という創作フレンチに行くためだけに、日帰り旅行しますから。

小山:僕はガストロノミー系のような洒落た料理を食べるために旅をするのは、実はあまり好きではないんです。それより、その土地の老夫婦のお店に行くのが好き。食べたあと、満「腹」になる、お「ふく」ろの味を思い出す、幸「福」感に包まれる、3つの「ふく」で「ふくあじ」と名づけているのですが、そういうお店が全国にたくさんあって、僕にとってはいわば「胃袋の故郷」なんです。
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写真=金 洋秀

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