社内の制度を知ることで、「あの時の自分」を救えるかも?
働く人の中には怪我や病気を患ったまま、無理して家庭や生活のために働き続けてしまう人も一定数いると内田氏。そこで、給与や手当金をもらいながら休業できる「私傷病休暇・休職制度」について人々は知っておくべきだと強調した。
「業務が原因でない病気・怪我によって、働くことが一時的に難しくなった場合、使用者が従業員の就業を免除して休ませる私傷病休職という制度を設けている企業が多くあります。
この制度では、一般的に会社からは無給になる(就業規則には無給と記されている)ので、ここで諦めて働き続けてしまう人もいるのですが、健康保険組合から「傷病手当金(給与の3分の2)」を受け取ることができます。企業によっては一部上乗せで給与を受け取れる場合もあります。なお、病気や怪我の原因が業務によるものの場合は、休職ではなく労災扱いです」
「怪我や病気を患ったまま、無理して家庭や生活のために働き続けてしまう人も一定数います」
手当の規定がない企業でも相談すると支給されるケースもあったという。「人事総務または庶務課に相談してみてください」
社内の人事制度・福利厚生制度の中には社員が認知していないものも多いという。何かしら困った時は、労務や総務に相談するという「聞いてみる姿勢」と窓口を把握しておくことは働く人にとって重要かもしれない。
社内で「産業医に相談してみたら?」と言い合えるか
辛い、疲れた、限界だ……。産業医やその他相談窓口を社員に広く認知してもらうことによって、組織は社員の健康を守ることができると内田氏は強調した。
「まずは同僚や家族に相談する方が統計的にみても圧倒的に多いです。産業医が常駐しているとも限らないですし、相談ハードルは高いですよね。しかし、産業医やその他相談窓口が周知されることは『うちの会社は従業員の健康サポートをする姿勢があるんだ。うちの会社を知っている医師に相談できるんだ』という風土・認識を生み出すことができます。
その中で、産業医の仕事は面談だけではなく、研修・施策立案・各事業部の働き方に即した支援などを医学的見地からできることも知っていただきたいですね。また、不安障害やうつ病の有病率(ある一時点において、疾病を有している人の割合)は女性の方が高いのですが、自殺率は男性の方が高いです。相談への心理的ハードルは、性差や組織風土にも左右されるということです。
職場でも、周囲が異変に気づいたら、声をかけあってほしいです。自分では気づけないことも多いですし、対策の第一歩となれるからです。例えば、1on1で部下がストレスを抱えていると感じた時、『元気がないように感じます。気分や体調はどうですか』や『医学的な部分は、産業医に相談してみるのはどうですか』と部下に伝えるところから始めいただきたいです。」
コロナ禍で周囲の働く姿が見えづらくなったからこそ、互いの健康をより「気にする努力」が求められる。それ以上に、自分自身の働き方と健康状態もこまめに見直す必要がありそうだ。
内田さやか◎ビジョンデザインルーム代表取締役社長/SAHANA Retreat Spa & Clinic 院長/産業医・労働衛生コンサルタント・心療内科医。IT企業を中心とした複数企業での産業医活動やメンタルヘルスケアの啓蒙活動に尽力している。2019年に働く世代が心身のコンディションを整える機会となるよう、メンタルケアとボディスパを提供するSAHANA Retreat Spa & Clinicを表参道に開院。