キャリア・教育

2022.11.05 17:30

重度障害、でも幸せ。難病病棟から在宅復帰へ|#人工呼吸のセラピスト


医師や言語聴覚士の丁寧な指導を受けながら、食べられる量を増やしていくリハビリに取り組んだが、レベルが上がるとまた誤嚥性肺炎を起こし、絶食、ペースト食のやり直し。期待した効果はないまま在宅生活に戻った。

それでも摂食・嚥下認定看護師と仲良くなり、メールで相談できる間柄になったことや、嚥下障害に苦しむ患者さんたちと知り合えたことが大きな成果だったという。

ある女性患者さんが「私が80代ぐらいなら諦めもついたけれど、まだ60代だもの。一生食べられないなんて耐えられない」とリハビリに頑張る姿を見て「手術を受けなくて、本当によかった」と思ったという。食べること、話すことの違いはあるが、自分の人生に大事なものを他人に簡単に決められてたまるか、という気概に共感したのだろう。

思い切って、外に出てみたら


「人工呼吸のセラピスト」主人公の押富さん
2年半ぶりに在宅生活に戻った押富さん

翌年1月のブログでは、車いすで買い物に出かけた体験を生き生きとつづっている。


一人では出歩くことが出来ないので外出はとびきり嬉しい。
近所のジャスコに行くだけなのに、朝から何着ようか悩んだり…
今日はブーツが履きたくなって装具つけるのやめちゃった。
たまにはそんな日があってもいいよね?

スーパーの中って広いから、車椅子でスイスイ動けて気持ちがいい。
でも、調子に乗るとすぐに疲れてしまう。
それに、結構ジャマになること多くて常に「すいません」って言ってる気がするよ。
でも、声が出るってこと自体が幸せなことだと思えるから全然イヤじゃない。
車椅子だからって嫌な思いしたことも特にないし…
やっぱり初めは抵抗あった。でも、思い切って外に出てみたら何でもなかった。
そんなもんなんだな。

嚥下障害はやっぱりひどいから、スーパーに売ってるものなんてほとんど食べることができない。
『あーコレ食べたい!』って思うけど、そこは我慢!
これ以上、肺炎繰り返すわけにいかないし。
自己管理しなきゃダメって嚥下リハの入院でも言われたしね。

食べられないのわかってるけど、お惣菜のコーナーやお菓子のコーナーを見るのが大好きです♪

いつか食べられうようになったら、コレ食べようとか思ってます。
あと、どうやったら食べれるものに調理できるか研究中!
おいしい嚥下食を作るのが目標です。


嚥下状態が悪くても、歩けなくても、声が出る幸せ。主体的に生きる重度障害者が、日々を楽しむ様子が伝わってくる。

大学病院で勧められた喉頭分離手術を先延ばしにした選択は、肺機能の悪化という形で、その後の人生に暗い影を落としていく。だが、それを間違った判断だと言えるだろうか。人は、自分が納得したことには頑張れる。その後の押富さんが起こしたさまざまな奇跡も、納得して頑張った行動の延長線上にあるのだから。

連載:人工呼吸のセラピスト

文=安藤明夫

ForbesBrandVoice

人気記事