「喉頭分離手術を受ける方がいい。耳鼻科の先生に言っておいたから、説明を聞いて」
喉頭分離手術とは、誤嚥防止のために気管と食道を完全に分離する治療だ。気管切開した部分から呼吸できるが、声帯に空気が通らないため声が出なくなる。通常は、言語障害があって寝たきりの高齢者などが手術の対象になるが、20代で手術を勧められるのはきわめてまれなことだ。
それほど押富さんが重症だったわけだが、病院の手順が悪すぎた。
十分な説明を受けて納得してから治療を受けたい押富さんにとっては「それまで嚥下障害のことをきちんと考えてくれなかったのに、どうして急に」と憤りを抱いた。
嚥下リハビリを担当するセラピストが手術を前提に「リハビリをやっても無駄だよ」と投げやりに答えたことも、不信の炎に油を注いでしまった。
当時の体験をブログで、振り返っている。
主治医からは「もう食べることは諦めたほうがいい。どうしても食べたいなら手術を受けるべきだ!しゃべるか食べるかどっちか選びなさい」と言われた。
嚥下リハビリの担当セラピストからは「やってもムダ!」と言われた。
悔しかった…
治療しても意味がないと言われ、到底選ぶことのできない選択をせまられ、セラピストからは見捨てられ。
なんでこんな人がリハビリの仕事してるんだ!そんなこと言うのは許されないはずだ!って。
自分がやりたくてもできない仕事を適当にやられている気がして、本当に悔しくて…
でも、大部屋だし、みんな自分の死と向き合わなくてはいけないような病気だったから、こんな私が泣いたらいけないと思ってこらえてた。
その後、敗血症も併発して40度の発熱が続き苦しんだ押富さんだが、主治医に「今の時点では喉頭分離手術は受けません」と告げ、嚥下リハビリに定評のある病院に転院した。大学病院のスタッフが自分の人生を考えてくれていないと、見捨てられ感を抱いたためだった。