2021年2月から執行役員法務部長としてアンドパッドに参画する岡本杏莉は、建設業界のDX化を法的観点から後押しする。メルカリの社内弁護士も経験した岡本は、建設業界の低生産性の最大の要因は「職場環境のアナログさ」にあると指摘する。
「現場監督と職人のやりとりは電話やファックスが主体。例えば、建設現場では天候や施主の要求により工程表がしょっちゅう変更されます。その都度紙のファックスを送るのですが、印字がつぶれていたため誤読し、間違えたまま施工して手戻りが発生するという事例も少なくありません」
人手不足も年々加速している。1980年代に80万人いた職人は、2020年には30万人に減少。現場監督は現場のかけもちを余儀なくされ、住宅の現場では20件を兼任する者もいるという。現行法制度の一例として、毎作業日の目視確認が義務づけられているため、彼らは日々あちこちの現場に足を運ばなければならない。
「この目視確認を、例えば定点カメラで代替できれば、移動時間が減り、業務効率は大幅にアップします。長時間労働などの業界課題を解決し、将来の担い手を確保するためには、DX化が急務なのです」
安全管理の視点から、法規制が厳しい建設業界。岡本は、業界の法規制動向や課題等を共有する場として「建設DX研究所」を立ち上げた。自ら情報発信を行う一方、産官学の垣根を越えた意見交換の場として勉強会を開催。建設DX推進政策についても議論を重ねている。今年4月に自民党のデジタル社会推進本部がまとめた「デジタル・ニッポン2022」にも、建設DXに関する提言が盛り込まれた。「中小工務店やベンチャーの声を政策に反映させたくて、この活動を始めました。現場の声を吸い上げ、DX導入のための規制緩和につなげることで、業界全体の課題解決を図りたい」
家をつくり、インフラをつくる建設業界は、すべての人の生活にかかわる業界だ。「それだけに社会的意義は大きく、挑戦のしがいがある」と、志の高さを見せた。