アニメ化もされており、これまでのところシーズン3まで放送。2023年1月からはシーズン4の放送が予定されている。人気作だけあってメディアミックスはアニメに留まらず、小説や実写映画、舞台など多岐にわたっている。
強敵は、「無料で読める」という絶大なアドバンテージ
「文スト」ではその名の通り、かつての「文豪」をモチーフにしたキャラクターが数多く登場する。たとえば主人公の名前は中島敦。「山月記」の著者と同姓同名である。彼の教育係を担うのが太宰治、ライバルとなるのが芥川龍之介で、彼らについては改めて紹介するまでもないだろう。明治や大正の作家だけでなくアメリカ文学の大著「白鯨」の作者ハーマン・メルヴィル、クトゥルフ神話の始祖ハワード・フィリップス・ラヴクラフトなど、幅広いジャンルの作家がキャラクターとなって登場する(本編とは異なるコラボレーション作品では綾辻行人、京極夏彦、辻村深月などといった現役の小説家もキャラクター化されている)。
本作は、いわゆる「異能バトル」に属する作品である。主要キャラクターは固有の異能を持ち、その能力名はそれぞれの「文豪」が著した作品名に因んでいるものが多い。たとえば太宰治ならば「人間失格」、芥川龍之介ならば「羅生門」といった具合だ。
他の人気マンガ同様、本作も様々なグッズが展開されている。
中でも目を引くのは、本作ならではの特長を使ったもの、すなわち元ネタとなった「文豪」の作品とのコラボレーションだ。角川文庫から、「文スト」の登場人物が表紙を飾る古典文学が発売されているのである。現時点で22冊がラインナップされているようだ。古典に限らず、文学作品の表紙といえば穏やかなイラストを彷彿としてしまうが、これらのコラボカバーではアニメ調の美麗なキャラクターが前面に打ち出されている。
古典文学とマンガのコラボレーションには先例がある。2006年、集英社が太宰治「人間失格」の表紙に「DEATH NOTE」の小畑健を起用し、大きくリニューアルして話題を呼んだ。売り上げも好調だったようで、翌年以降に「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦が川端康成「伊豆の踊子」を、「BLEACH」の久保帯人が芥川龍之介「地獄変」と坂口安吾「堕落論」の表紙をそれぞれ手がけている。
こうした戦略が古典文学の持つ、現代にも通用する底力が前提となっているのは言うまでもない。そのうえ、古典文学には現代文学にはいない商業上の「ライバル」と競争しなければならない現実がある。その「ライバル」とは、「無料で読むことができるという絶大なアドバンテージ」である。
中島敦にせよ太宰治にせよ、没後50年を過ぎており、著作権が消滅した作家たちである(現在は法改正により、著作権の保護期間は50年から70年に延長されている)。そのため、お金を出して購入せずとも自由に閲覧可能だ。1997年に設立された電子図書館「青空文庫」はパブリックドメインとなった作品を積極的に公開、共有しており、登録作品は15000作を超える。また、現在ではアマゾンから無償でダウンロードし、キンドル端末やアプリで閲覧することもできる。その気になれば、古典文学にアクセスするのは極めて容易な時代なのだ。