ザ・ロックの「7ドルの逸話」が優れている3つの理由

ドウェイン・ジョンソン / Getty Images

米俳優の「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンは、主演した最新DC映画『ブラックアダム』について語るとき、自身の魅力であるカリスマ性、ユーモア、謙虚さ、ストーリーテリングを織り交ぜた個性を発揮してきた。その中でも、「7ドル」をめぐる逸話は、あらゆる分野のリーダーがコミュニケーションの見本とすべきものだ。

ストーリーテラーは、オーディエンスの注意を引き付け、強い感情的つながりを築くことができる。筆者が合うリーダーのほとんどは、ストーリーテリングのスキルを磨くべきであることを認識しているものの、その方法が分からずにいる。

まずは、自分という人間を作り上げた一つの出来事、つまり自分の原点となる「オリジン・ストーリー」を特定することから始めよう。ジョンソンにもそうした逸話があり、「マイ・7バックス・ストーリー」(バックスはドルの意味)というタイトルまで付いている。

その概要は、以下の通りだ。

ジョンソンは16歳から始めたフットボールで、プロを目指していた。奨学生としてフットボールの名門マイアミ大学に進学。だが最終学年で起きた負傷により、米プロフットボールリーグ(NFL)チームへの入団は断念した(いずれにせよ、自分に興味がありそうなチームもなかった)。

練習生としてカナダのフットボールチームと契約したものの、その後解雇された。マイアミに戻ることにしたが、空港へ行くタクシー代すらなく、友人に車で送ってもらった。マイアミへ到着し、父親が運転する車でタンパにある実家へ向かう道すがら、自分の財布の中を見ると、所持金は7ドルしかなかった(5ドル札と1ドル札が1枚ずつと小銭で、「切り上げて7ドル」だとジョンソンは語っている)。

ジョンソンはこの時、人生のどん底にあったが、そこである決意をした。世界に自分の名をとどろかせてやる、世界に自分の軌跡を残すのだ──と。彼は後に、何もかも失ってしまったように思えても自分の内なる力を見つけて前進すべきだということを忘れないため、「セブン・バックス・プロダクションズ」と名付けた製作会社を立ち上げた。

このストーリーは、以下の3つの点で、傑出したオリジン・ストーリーとなっている。

1. 普遍性がある

この逸話には、全てを失ったように思える時に希望を見出す、という普遍的なテーマがある。優れた物語の台本には、主人公がどん底に落ちる瞬間が必ずと言っていいほどある。

2. 適量の細かな描写がある

細かな描写はストーリーの信ぴょう性を高めるが、多く盛り込みすぎるとくどくなってしまう。ジョンソンのストーリーでは、マイアミ大学、カナダのチーム(カルガリー・スタンピーダーズ)、空港への移動、財布の7ドルといった具体的情報が程よく盛り込まれている。

3. 一貫性がある

ジョンソンは、短いテレビインタビューなどでは時間の制約から細かい部分を省略することもある。しかし話の時系列は変えず、自らの会社の名前にするほど重要である「7ドル」は必ず含めている。

オリジン・ストーリーは、人生の最初から始まる必要はないが、「始まり」を回想するものになる。過去の自分から今の自分への変化の始まりを描こう。

ストーリーテリングは幅広いテーマであり、創作分野の経験がないリーダーにとっては理解が難しいかもしれない。難しく考える必要はなく、単に今の自分やその価値観を作り上げた過去の出来事や経験を特定し、それにいくつかの詳細を加えつつも簡潔に保ち、繰り返し共有すればよい。

forbes.com 原文

編集=遠藤宗生

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