街の景観と素材の関係を捉え、40年弱の年月をかけて育んできた「CS デザイン賞」。これに関わる全てのアーティストのアイデアによって、カッティングシートの可能性は静かに広がり続けている。
中川幸也が街に溢れる色彩に「色公害」の問題意識を持ったその日。そこを起点に起こした行動からすべてが繋がり、さらに脈打っていくのだ。
「わが社は工場を持たないので、価格競争になると、製品を内製できる大手には敵わない。だからそこで勝負するのではなく、他がやらないところにいかに世界を作っていくかを考えていく必要がありました。結局、デザインや色彩、素材を突き詰めて差別化するところに生きる道があったのだと思います。その『強みの灯火消すまじ』の志は、わが社の根底に脈動として生き続けていますね」
施工中、計画外のドラマも
「人間空間に色をさす」 都市に機能と美装、中川ケミカルの挑戦 で紹介した田内万里夫氏の個展会場を晴れた日の夕方4時頃、訪れてみた。ウィンドウに施工された曼陀羅アートを通してギャラリーの室内に日光が降り注いでいる。
Mario Tauchi @ CADAN Yurakucho, 2022, Installation view(Cutting Sheet by Nakagawa Chemical inc.)
気づけばギャラリー内の「壁」に、ドローイングが映っているではないか。そのさまはまさに「プリズムのよう」で、思わず息を飲む。しかも斜光の角度が時時刻刻変化するにつれ、壁に投影される曼陀羅も命を宿したように動的に、様相を切り替えていくのだ。
聞けばそのドラマチックな効果は、画家も原画をデジタル化したデザイナーも施工者も、誰ひとり予想しなかった偶然の結果だという。
銀座の一隅の小さな壁の表面で密やかに脈打ちつつ浮かびあがっていたのは、都市をデザインすることに一心に打ち込んできた中川会長と同社の、計画をはるかに超越した都市の風景だった。