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2022.11.10 11:00

「人間空間に色をさす」 都市に機能と美装、中川ケミカルの挑戦

田内万里夫の個展「MARIO」(企画:Gallery Yamaki Fine Art)が開催された東京・有楽町の「CADAN 有楽町」。ウインドウには、中川ケミカルのカッティングシートで田内の曼陀羅アートが見事に再現された


案の定、上がってきたスキャンデータは、カッティングシートの元にするにはいわば「解像度不足」なものだった。しかしデータ化をやり直そうにも、肝心の原画はもう人手に渡っていて田内の手元にはない—。
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そこで田内はウインドウ用の作品を新たに徹夜で描き下ろすことになる。だが、描き上がった新たな原画を見た小林氏の口から出た言葉が、冒頭の「こんなに単純な絵でいいんですか」だったのだ。かねてから田内の作品を見ていた小林は「この線描には本来の田内作品の精細さ、凄みを秘めた力がない」と感じたのだ。

田内は言う。「データ化に1回失敗していたし、あんなに大きなウインドウ用にデジタル化し、シートをカットして再現できる原画を用意せねばという発想でいらぬ逆算をし、線描がいつもよりも単純になってしまっていた、そこを見抜かれましたね」

そこで田内は、「カッティングシートで再現する」ことをいったん忘れ、改めて魂を入れて作品を描きなおしたのである。
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「一線ずつマウスでトレース」してデータ化


だが「どうやってデータ化するか」の問題は依然として残った。刻一刻と期日が迫る中、小林が出した答えは、一線ずつトレースしてデータを作り直すという方法だった。

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ギャラリーのウインドウに施工された原画の下絵

「時間や費用があればいくらでもやり方はあったのですが、あの時の条件下で田内さんが求めるものを実現するにはこの方法がベストでした。結局、朝の9時から深夜の12時まで、2日かけて仕上げました。せっかく相談を受けて、できないとは言えませんからね。

一般の施工業者ができれば避けたいと考えるようなことでも、その効果が大きいと想像したら、やってみたい、見てみたいと思うのは素材をつくっている立場の欲かもしれません。それにまあ、どんな仕事でも想定外のことはあるものでしょう。

そもそも、新しい材料を使ったから新しい表現ができるというわけではない。マテリアルの力に頼るのではなく、加工や施工においても、その特性を活かした使い方をしなければならないと思っています。

今回使ったカッティングシートは『セプテットフィルム』。反射もすれば透過もします。見る角度によってさまざまな色に変化し、劇的に空間を変えることができるのがこの素材の実力です。施工に立ち会った田内さんにも、『時時刻刻と違う表情を見せてくれて、まるでプリズムのようだ』と喜んでいただけました」

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田内の原画からトレースされたカッティングシートを現場で施工する

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施工されたウインドウ

後編:都市の色公害と闘う1000色の塩ビシート 売上ゼロからの大逆転 に続く

構成=石井節子 協力=堤直子

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