ウクライナのエネルギーひっ迫は各国に迫る冬を予見させる

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こうした議論があるのは、ロシアがウクライナに侵攻する前の数年間あるいは数十年間に、化石燃料の利点と限界を比較しながら、再生可能エネルギー源の利点と限界について率直かつ十分な議論をする時間と機会があったのに、西側諸国のエリートが近視眼的になってそれを行わなかったからだ。

ロシアのクリミア侵攻とそれに続くクリミア併合が2014年初頭に行われたことを考えると不吉な前兆があったのは明らかで、今思えばウクライナに対するプーチンの意図を示すものはもっと前からあった。だが多くの欧米諸国、特にドイツは自国の国内エネルギー政策と欧州全体の地域安定との相互作用が、今にして思えばなぜ見逃されたのか理解できないほど明白であることを認識せず、現実から目を逸らすことを選択した。

いま、我々は振り返ることができる。ドイツの「エネルギーヴェンデ」のような政策は、再生可能エネルギーの限界による不足分を補うためにドイツが常にフェイルセーフ(誤作動などがあっても安全な方に作動する仕組み)を持ち、必要な天然ガスと石油を輸入することができた場合には、理論上はそれなりにうまくいったかもしれない。しかし、抽象的だったことが現実となり、侵略者であるロシアと深く結びついたドイツのバックアッププランが信頼性を失うと、必然的にこのような政策は完全に失敗する。

冬が間近に迫り、プーチンはウクライナでまだ戦いを繰り広げ、罪のない人々を殺している。そして、エネルギー不足の恐れが欧州だけでなく、世界中の西側諸国の指導者を巻き込もうとしている。ニューイングランドのように米国の特に脆弱な地域を含む他の西側諸国の指導者も同様に「すべての機器を充電せよ」と市民に警告し始める日はそう遠くないかもしれない。あらゆるエネルギー源の利点と限界を検討し始める前にここまで来てしまったことは本当に恥ずべきことで、政策と計画の大きな失敗だった。

確かに、気候変動による地球温暖化の進行は私たちが最大の注意を払い、行動すべき重要な問題だ。しかし、それを例えば独デュッセルドルフや米ボストンの子どもたちの親に言ってみて欲しい。一国の戦争のようなものが統合された世界経済において世界中に引き起こすトリクルダウン効果はいうまでもなく、我々の指導者たちが世界的なエネルギー供給の確保といった重要な関連問題を十分に考慮することなく、早々に1つのエネルギーバスケットにすべての卵を入れることを選択したために、2023年2月にはそうした都市の子どもたちが文字どおり凍えるかもしれないと。

指導者たちは、この機会とそこから得られる教訓を生かして今を乗り切るための最善の方法を見つける一方で、すべての潜在的な失敗や不測の事態を十分に考慮し、評価し、計画し、対処した上で、真の長期エネルギー計画の策定に誠実に取り組み始めれば偉績となるはずだ。今こそ、運にすがってではなく国防に注ぐのと同じくらいの注意と真剣さでエネルギー政策を扱い始めるべきときだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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