このたび、そんなモンドリアンのある作品が「75年以上も逆さまに展示され続けていた」ことがわかり、世界的な話題になっている。
1945年の初展示以来ずっと「逆」?
モンドリアンは、ヨーロッパからニューヨークに転居した直後の1941年から42年にかけて連作「New York City」を制作した。
今回の「逆さま」騒ぎになっているのは、その連作中の1枚である「New York City I」。1945年の初展示以来ずっと、キャンバスの下の線の密度が高い(線同士の距離が短い)状態で展示されてきた。
米国「CNN」や「ガーディアン」によれば、この「疑惑」を公開したのは、今後「モンドリアン展」を開催する予定で、1980年にこの作品を購入したドイツ、デュッセルドルフの現代美術館「ノルトライン=ヴェストファーレン20世紀美術館」である。
画家自身は「上下逆」の状態で制作──
論より証拠、モンドリアン自身のアトリエにこの作品が置かれた写真では、上下逆の状態になっているというのだ。
先のノルトライン=ヴェストファーレン20世紀美術館によれば、「上下逆に置いても作品は機能する、それどころかより確かな強度と可塑性を得る。だがひっくり返した場合、上部のいくつかの線の密度において、一連のモンドリアン作品の中の別の1枚、『New York City』との関連性が強調される。また、左部と上部の青の線が連作の別の作品と近似していることもわかる」という。
連作は、おそらく後からキャンバスに直接彩色するつもりで、着色したテープをキャンバスにまずは置くことで制作されていた。画家は常に「上から下」の順序で線を置いて行く制作方法をとっていたので、キャンバスの上下方向は決まっていたと思われるという。
「下部」の端では線がはがれて……
「CNN」や「ガーディアン」によれば、同美術館はさらに次のように話しているという。
「キャンバスを上下逆にしてみた検査の結果、上部の端の方の線はキャンバスにたしかに付いたままだが、下部の端のほうの線はあちこちがはがれてしまっていることがわかった。このことからも、この作品がこれまで『上下逆』に展示されていた可能性が強い」。
これらのヒントや「証拠」からどうやらこの名画は、1945年に初展示されて以来ずっと「さかさま展示」されていたらしいのである。
ニューヨークの街のごとく逞しく?
画家がキャンバスの上下方向を定めた上で、常に「上から下」の順序で制作をしていたとはいえ、制作中キャンバスを回転させていたりしたことも知られるので、作品にはもともと「正しい向き」がなかった可能性はある。さらに、逆にされても表現し続けるのは、作品のテーマであるニューヨークの街が持つ性質と同じだ、という評もある。
とはいえ、「そもそもの、画家が意図した状態」で鑑賞することが、後世のわれわれが取り得るより誠実な態度であるとはいえるだろう。
今回の顛末に際し、国内外から注目される「曼陀羅アート」を制作し続ける画家の田内万里夫氏は次のように話している。
「優れた絵には必ず読み解ける、あるいは読み解くべき何かが仕込まれているものだと思うので、それを洞察した美術史家の眼力はじゅうぶんな確率で真実を言い当てているのだと思う。またそう思いたい」