【お知らせ】Firefoxでの記事閲覧について

経済・社会

2022.10.31 17:30

韓国・梨泰院で154人死亡事故 予測できなかったのか、群衆が動き出す理由


米村氏が警視庁警備1課長だった時代、プロ野球巨人軍の優勝パレードが行われた。警察当局は規制線を張り、警戒したが、オープンカーに乗った選手が登場すると興奮して殺到しそうになった。米村氏はこの経験を契機に、優勝パレードでは2階建てバスを使うようアドバイスしたという。「選手に近づけないと思えば、人の動きが多少緩和されると思ったからだ」という。

ところが、複数の韓国警察関係者は、今回の事件ではこうした対応が難しかっただろうと指摘する。当局者の1人は「まず、梨泰院には細い路地がたくさんある。路地すべてを規制し、人の流れをコントロールしようとしたら、ソウルの警察官全員を集めても難しいだろう」と話す。韓国にも日本の雑踏警備に相当する「混雑警備」という体制がある。韓流スターが空港に現れる時や、大規模な野外コンサートの開催、海外からの要人訪問などの際に実施される。

ただ、「有名人が現れる」といった情報程度で警備体制を敷く可能性は高くないし、そもそも公開された情報もなかったようだ。別の韓国警察関係者は「メディア報道では有名なDJが現れたというが、若い人にとっては芸能人並みの存在でも、一般的にはなじみがないのではないか」とも話す。

韓国メディアによれば、韓国警察当局は事故当夜、梨泰院地区に10万人規模が集まっていると判断したが、違法撮影や麻薬犯罪を摘発するための警官200人を投入しただけだったという。李祥敏行政安全相は30日の記者会見で、ソウル市内各地でデモや集会に備えた人員配置を行っていて、梨泰院地区に大勢の警官を配置する余裕がなかったとの考えを示した。ただ、梨泰院地区への人や車両の出入りを規制するなどの対抗策を考える余地があったのではないか。

2014年4月に起きた旅客船セウォル号沈没事故では、救助活動の遅れが世間の非難を浴びた。今回は一斉に事故を伝える通報が流れ、警察や消防当局が出動して救助活動にあたった。尹錫悦大統領も30日午前、事故現場を訪れた。事故が収集するまでの間を国家哀悼期間とし、これから開かれる様々な行事を巡る安全点検も指示した。31日には、今回の事故の徹底的な真相究明も命じた。梨泰院の事故責任を巡っても捜査が進む見通しだ。韓国は今、国を挙げて喪に服している。

過去記事はこちら>>

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事