ビジネス

2022.11.01

メルカリを支える秘密部隊「社会の写し鏡」が抱える責務とは

メルカリ 執行役員 吉川徳明

近年、スタートアップ企業のなかでじわりと増えているのが、政治や行政に働きかけをするロビイングに関するチームの組成だ。その先駆けであり、業界では最大規模となる十数人の「政策企画」チームを抱えているのがメルカリである。

「官僚出身の専門家が集まっているイメージがあるかもしれませんが、元地方議会議員や他社からの転職者、社内異動してきた人など、いろんなスタッフがいるんです」と、2018年の立ち上げからチームを率いてきた吉川徳明は話す。

当初から政策企画は大役を担ってきた。例えば、決済サービス「メルペイ」で提供しているAI与信。もともと法規制による制限があったが、同社をはじめ関連業者によるルールメイキングの成果として20年に割賦販売法が改正され、認定を受けた業者はAIによる与信審査を活用して与信枠を決定できるようになった。

メルカリの社会的影響力の拡大に伴い、政策企画チームは役割をさらに広げている。吉川が語る。「政治家や官僚の方々に情報をインプットしたり、法規制の改正を提言したりするロビイングはいまも行っていますが、業務全体の3割弱。私たちは2000万人のユーザーを抱えるサービス事業者であり、そのなかで起きることは社会の写し鏡でもあります。ただ法律を守る、規制を適正化するというのではなく、より多様なステークホルダーとコミュニケーションをとって、社会からの要請に応えていく必要がある」。

21年1月に策定した「マーケットプレイスの基本原則」はその象徴だろう。需給バランス崩壊による取引アイテムの価格高騰など、フリマアプリ「メルカリ」のなかで、法律では対処できない課題に対する運営の原理原則をまとめたもの。策定にあたっては、経済学や企業倫理の専門家、小売流通事業者、メルカリの出品者や消費者の代表など、想定されるあらゆるステークホルダーを巻き込み、外部有識者会議で半年間の議論を行った。

「インターネットなどの新しいテクノロジー領域は、法規制によるルールで規定できることが限られます。サービス提供者が、社会の公益のもとで自主的につくるルールの影響は極めて大きい。それを担うのも私たちチームの責務なのです」

文=中沢弘子 写真=帆足宗洋

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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