筆者は2016年、ソーシャルビジネスで社会課題を解決するボーダレス・ジャパンの福岡オフィスを訪問した際に石川氏と出会った。
地元農家と連携しながら、さまざまな困難を経験しながらも起業家として畑に立つ彼女のエネルギーや起業家精神は、どこから生まれているのか?現在はクラウドファウンディングにも積極的に取り組んでいるという石川氏に話を聞いた。
──未経験からどういった想いで農業を始め、5年間続けてきたのでしょうか。
私は小学校の頃3年間、インドのニューデリーで過ごしました。インドで間近に「死」や「貧困」と直面した経験から、私の中に強く残ったのは「自分だけが健やかな世界で生きるのは嫌だ」という想いでした。
貧困や災害などの社会課題は完全にはなくならないと思います。しかし、どんな困難も乗り越えて「喜怒哀楽」など、さまざまな感情を味わって死んでいくのが、人生の醍醐味だと考えます。
発展途上国の人々だけでなく、身の回りの友人や誰しもが様々な問題を抱えていることにも気づき、これまで「国」という視点で捉えていた物事を「人」にシフトして考えるようになりました。
そんななか、社会課題の解決に取り組むボーダレス・ジャパンと出会い、自分は何をしたいのか、それをどう社会課題解決に繋げられるかを改めて考えた結果、人や環境に密接につながる「農業」、そして農業が抱える「農業就業人口の減少」という課題に辿り着きました。
人間の営みが「健やか」に続いていくよう、人間だけではなく、私たちが生きる”地球”という土壌も維持できる未来を「今」を生きている私はつくる必要がある、そんな想いで「みらい畑」をスタートしました。
──石川さんの「農業をやりたい」という想いを聞いて新富町を推薦したら、すぐに視察に来て移住を決め、その2カ月後には会社を立ち上げていましたよね。当時、まったく注目されていなかった新富町に県外から女性起業家がやってくるということで、役場職員が総出で迎えていたことを覚えています(笑)
とはいえ、新富町に移住した時点での農業経験はゼロでしたので、はじめの2年くらいは「野菜をちゃんとつくる」ということを目標として活動していました。そこから四苦八苦しながら、農作物を「売る」というフェーズに入っていきました。
3年目に「腸活ミニ野菜」というぬか漬け専用の野菜セットを開発しました。それが好評だったこともあり、少しはビジネスとして成長できたかなと思っています。
振り返れば、これまで「社会課題を解決したい」という想いだけで生きてきたようなものです。でもいまは「農業の課題を解決する」ことに人生を懸けていきたいと考えながら農業をしています。
商品として開発された「腸活ミニ野菜」。皮やヘタもまるごとぬか漬けや塩こうじ漬けに。野菜の栄養素を最大限に引き出すことができる