データが人工知能の「アキレス腱」に

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データリテラシーの欠如は、データのサイロ化を招き、AIを阻害する要因にもなり得る。モハンは「たとえデータリテラシーを持つためのリソースはあったとしても、多くの大企業が直面している大きな問題は、業務上のサイロ化、つまり事業部門、地域チーム、その他のビジネスラインが企業内の各部署から孤立して運営されていることです」という。「たとえば、多くの大手消費財メーカーは、数十から数百のブランドをグローバルに展開していて、それぞれが専門のマーケティングチームを持ち、独自のテクノロジーフレームワークとプロセスを活用していることは珍しくありません」

またデータリテラシー、コネクティビティ、ヒューマンスキルの方向へ踏み出そうとしても「企業内の惰性」によってなかなか方向転換は難しい。Gupshup(ガプシャップ)の最高技術責任者であるクリシュナ・タマナは「彼らは投資をしても価値を見ていないか、データ管理システムに十分な時間と資金を投資して成功させようとしていないのです」と述べている。「効果的なAIを実現するための前提条件は、高品質なデータなのです。そしてそれは多くの企業で不足している領域なのです」

一方で、AIシステムに無分別にデータを投入することで、バイアスや見当違いの情報を持ち込むというトラブルも考えられる。Hogarth Worldwide(ホガース・ワールドワイド)のAIプロダクトのグローバル責任者であるピーター・ゴードンは「私たちは、新しいAIの画期的機能を採用するたびに、倫理的責任というレンズを通して見ています」と語る。「私たちは、学習データに固有のバイアスを持つアルゴリズムの誤用や被害から保護する方法を、非常に注意深く見ています。これは、問題というよりもデューデリジェンスのようなものですが、当然のことながら、より迅速な採用を遅らせることになります」

誰もが機会を逃しているわけではなく、データの活用に成功したユースケースもある。タマナは「適切な品質のデータが適切に利用されている、対象を絞ったいくつかのユースケースがあります」という。「大きく普及すると思われる分野の1つが、会話型AIを使った顧客エンゲージメントです。現在の顧客エンゲージメントを取り巻く環境には、多くの課題が残されていますが、AIを活用しパーソナライズされた会話によって、コンバージョン、顧客との継続、ブランド認知度が向上しています」

より精度の高いアウトプットを実現するために必要なデータを確保することで、より高度なAIへの扉が開かれる。ゴードンは「次の変革は生成型(ジェネレーティブ)AI、すなわちデータを使って、これまで見たことも聞いたこともない新しい画像、動画、ストーリー、音楽、さらには異世界を自動的に生成することです」という。「経験することが信じられないほど、成熟のスピードが飛躍的に速くなっているのです。私たちは、大規模な展開に対応できるよう、熱意をもって、しかし慎重に取り組んでいます」

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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