韓国海軍、海上自衛隊国際観艦式に参加 もろさを見せたシビリアンコントロール

尹錫悦大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun - Pool/Getty Images)


尹錫悦政権が海上自衛隊の国際観艦式への出席を逡巡する背景には、18年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式を巡る騒動と、18年12月に起きた韓国海軍艦艇による自衛隊哨戒機への射撃用管制レーダー照射事件があったからだ。済州島での観艦式では、当時の文在寅政権が自衛隊に対して自衛艦旗(旭日旗)の掲揚を事実上拒否した。レーダー事件では、照射の事実を否定する韓国に対して、日本側が照射を巡るお互いのデータを米国に提供して判断してもらうことを提案したが、韓国はこれも拒み、真相は迷宮入りしてしまった。今の状態では、日本の海上自衛隊艦艇は韓国に入港できない。そんな状況で、韓国軍艦艇が日本に行けば、進歩(革新)系を中心に激しい反発の声が起きるという懸念があった。

結局、尹政権はぎりぎりまで悩むという姿を見せることで、韓国世論に理解を求めるやり方を取った。ついでに、北朝鮮がミサイルなどを乱射している状況も追い風にして、何とか発表にこぎつけたというのが真相だという。

しかし、これでは「シビリアンコントロール(文民統制)」の乱用になってしまうのではないか。文民統制は、軍部が暴走しないように、民主主義で選ばれた国民の代表が軍事の指揮権や最終決定権を持つというやり方だ。ところが、韓国では軍事独裁政権の歴史の反作用で、現在では国防部・軍が政治の顔色をうかがっている。軍出身の全斗煥、盧泰愚両元大統領が逮捕・収監されたり、ハナフェなどの軍部内私的組織が根絶されたりしたため、政治家の意向次第で、軍人の昇進・降格が決まるという構図が定着したからだ。

複数の韓国側の関係者の証言によれば、国防部・軍と尹政権の安保当局者らは、最初から「自衛隊観艦式への参加」で一致していた。ところが、内政を担当する当局者や政治家らの顔色をうかがうあまり、参加の発表が遅れに遅れた。韓国は9月末、日米韓による対潜水艦戦闘訓練に参加した。韓国の対潜戦能力は日米よりも格段に劣っており、その意味でも3カ国協力が韓国の国益につながることは間違いない。シビリアンコントロールは、政治が軍の暴走を抑えるための仕組みだが、今の韓国は軍が政治に気を遣うあまり、安全保障政策に支障が生じている。逆に、海軍が一時、大型輸送艦やイージス艦など、やたらに海自と同じ装備を導入したがったのは、韓国政治の底流にある「反日」の雰囲気を利用して予算を獲得した結果でもある。

日本も他人事とは言っていられない。戦後の国会は安全保障を巡る議論を、憲法を巡る議論に矮小化し、具体的な軍事問題に踏み込むことをタブーとしてきた。平和主義は高く評価されるべきだが、そのために日本の安全保障政策がガタガタになったのも事実だ。東アジアの安全保障の状況は戦後最悪と言える。政治家は支持率よりも国のことを、軍人も予算や昇進よりも国のことを、それぞれまず考えなければいけない時代であることは間違いない。

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文=牧野愛博

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