Forbes JAPANは、point 0が発行するアニュアルレポートを2021年より制作。そこで生まれる企業同士の化学反応や新たなソリューションに注目している。
以下で、point 0 annual report 2021-2022から抜粋したCross Talkを紹介する。
>>point 0 annual report 2021-2022のダウンロードはこちらから
これまでとは異なる共創を生み出す源泉となった自然発生的なIT勉強会:Tech.0
企業間の共創を成功に導くひとつの鍵となるITリテラシー。その底上げの必要性を提唱したのはマイクロソフトの濱田氏だった。何気ない提案から始まった取り組みは約40名のメンバーを抱えるまでに成長。そこで始まったのは、これまでにない企業同士のコラボレーションとソリューションの創出だった。
point 0では数々のワーキンググループやイベントが活発に行われているが、今期、目覚ましい成果を見せているのが「IT勉強会:Tech.0」(以下、Tech.0)だ。その成功の理由がどこにあるのか。勉強会のオーガナイザーとして中心的役割を担う、マイクロソフト(以下、MS)の濱田隼斗氏と、班長4名に話を聞いた。
―Tech.0が立ち上がった経緯を教えてください。
濱田隼斗(以下、濱田):point 0のいくつかのプロジェクトが難航しているという話を見聞きする中で、テックリテラシーを向上させることで解決できることが多そうだと感じていたことに加えて、ITについて勉強する機会がほしいという声も聞いていました。私はMS本社所属でAIを専門にしており、エンジニア系のイベント、例えばイントラプレナー(社内起業家)の育成プロジェクトやオープンハックというハッカソン+ディスカッションのプログラムなどを実施していたのですが、それをpoint 0でもやってみたいという気持ちもありました(MSのミッションは「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というもの)。そこで役員にアイデアを話したところ、「いいよね」ということになって。小さな規模で始めるつもりが、を挙げてくれる人が多くて約40名の大所帯に(笑)。それが今年2月のことです。枠組みとしては、プロジェクトによって班をつくり、2週間に1度、定例会を設けて班長が集まり、進捗確認を含めてコミュニケーションを取っています。
―皆さんが勉強会に参加した動機を教えてください。
大内佑美(以下、大内):鹿島建設のDXを推進する部署にいるのですが、自分自身を含めて社内のITリテラシーはまだ向上させる余地があるので、何かヒントのある場所はないかと探していたところに声をかけてもらいました。社内にこれほど実践的な勉強会はなかったので、今後、自分が主催する側の知識としても非常に役立つと思っています。
宇高沙織(以下、宇高):オカムラ社内のDXリテラシーを高める社内教育プログラムを担当していますが、個人的に空間の映像演出にずっと興味があり、ARをオフィス空間でやってみたいという構想を何年もあたためていたんです。今がチャンス!と思って申し込み、班長にも立候補しました。
川名明彦(以下、川名):野村不動産ホールディングスのDX・イノベーションを推進する部として、新規事業開発や、住宅事業・都市開発事業などの既存事業をデジタル活用によって支援するのが主な業務です。以前、MSの濱田さん主催のハッカソンイベントに参加した際に、技術に触れることの重要性を痛感しました。そんな折、Tech.0のことを知り参加を決めました。
西山佑香(以下、西山):JTのICT推進チームで、社内デジタルツールの利活用促進を主に担当しています。Tech.0は先輩の紹介で説明会に行ったのですが、企画を立てて、組織に持ち込んで反映させるところまでやる、というのがとてもいい取り組みだなと思いました。自分の興味のあることで組織に還元できることに魅力を感じ、やってみようと。とりわけ熱があることがメンバーにも伝わったのか、気が付いたら班長になっていました(笑)。
左:宇高沙織(オカムラ)◎DX戦略部 DXアカデミー室/右:川名明彦(野村不動産ホールディングス)◎DX・イノベーション推進部DX推進室
―皆さん、明確な目的意識を持って、自発的に参加されているわけですね。
濱田:ITというのは今から10年後、自身のキャリアのためにも絶対に身に付けなくてはいけないものですが、日常の業務に追われ、学ぶための教材もなければ、一緒に歩む仲間も、後ろからつつくような存在もいない、というのが現状です。あったらいいなと思っていた「場」がこの勉強会。始めてみたら、いきなりARのアプリが上がってきたり、エンジニア顔負けの質問が飛んできたり。皆さんの熱意とスピード感、求められるレベルの高さに驚きました。
―勉強会でのテーマは、所属企業や業務には活かされていますか。
大内:私の班では、スキルを可視化するアプリケーションを企画しました。現在の業務には一見関係しないスキルを皆が持っています。意外なスキルというのはその人を知ることにも役立つし、業務上の思わぬところでそれぞれの知識が活きたりする。そんな人材のリソースを無駄にしないためにスキルの可視化を実現しようというテーマです。この勉強会で得た実務的な知識は、事業やサービスを設計する上流の部分でとても役立っていて、自分で要件定義をできるようになったのは大きな収穫です。
宇高:私たちはUnity等のソフトを使ったARの作成に取り組みました。オフィスの空中に思わずタッチしたくなるようなリアルなオブジェクトを出したり。オカムラは空間をつくる会社なので、ARなどのデジタル的な演出がきっと必要になってくると思ったのです。そういうタイミングが来たときに、動くものをつくって見せられればきっと役に立つ。アイデアを形にした試作品を自分たちでつくれるというのはいいですよね。
川名:乗り合いタクシーの配車予約アプリをテーマに、すでに実証されているアプリを模倣して、サンプルをつくりました。サービスや企画を考えて社内でオーソライズを取る際、プレゼン資料よりも実際にモノを見せるほうが合意形成が早い。Tech.0で得たスキルを社内にも展開し、つくったモックを見せることで、なるべく早く事業開発のサイクルを回していけるように体制化していきたいと考えています。
西山:私たちのテーマはPythonを使ったWebスクレイピングです。これまでは、人の手で収集した情報を社内SNSに載せていましたが、時間も労力もかかる。自動化できたらいいよね、というところから始まりました。将来的には国内外の喫煙に関する情報などもWebスクレイピングでキャッチアップできたらいいなと思っています。Pythonを学ぶにあたって、何も知らない状態からWebスクレイピングはできない。そこで、まずProgateというWeb教材を提供してもらい、これを10人の仲間たちと毎週、決まった時間に一緒に勉強しました。学びながら実践し、スキルアップできたし、Pythonを学んだこと、ツールを理解していることがアイデアの想起にも活かされていると思います。
左:大内佑美(鹿島建設)◎デジタル推進室/中央:西山佑香(JT)◎営業サポート部 ICT推進チーム/右:濱田隼斗(マイクロソフト)◎クラウド&ソリューション事業本部 インテリジェントクラウド統括本部
―Tech.0から得た気づきや影響について教えてください。
川名:モノづくりを通して、いろんな企業の文化の違いやルールを聞きながら、意見を出し合って、工夫するプロセスにより、自然と気軽に話し合える仲になりました。また、メンバーだけでなく、チーム間でもコミュニケーションが取りやすくなりました。これまでになかった企業間接点も生まれたので、活かしていきたいですね。
大内:ITということで、今までコラボを考えてこなかった企業同士も接点を持つようになりましたね。
宇高:Tech.0をやったことでpoint 0に関わる人の裾野が広がった気がします。興味があるから参加者が増えて、それが今後、実証実験にもつながっていくのではないでしょうか。
大内:こういうプロジェクトは一人のやる気だけではなかなか進まないけれど、楽しい形で適度なプレッシャーを与えられることで、大変ではあるけれど笑顔で頑張ることができています。
西山:確かに、私にとってもこうしたプロジェクトに向き合うマインドや仕組みづくりというのは大きな収穫でした。こんな切り口もある、こんなやり方もある、という選択肢もぐっと広がったという感覚が得られたので、今後はそれを活かしていきたいですね。
濱田:point 0にはアプリやWebサービスのようなITサービス系のプロジェクトがほとんどなかったからか、この勉強会を始めてから、皆さんに「あれつくれない?」「これできない?」といったような相談を驚くほどたくさん受けるようになり、大きな可能性と需要を感じています。勉強するフェーズはいったん区切り、今後新たな形に発展させていきたいですね。