Forbes JAPANは、point 0が発行するアニュアルレポートを2021年より制作。そこで生まれる企業同士の化学反応や新たなソリューションに注目している。
以下で、point 0 annual report 2021-2022から抜粋したSpecial Interviewを紹介する。
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空間データの協創/共創プラットフォーム「CRESNECT構想」をもとにスタートした「point 0」。その実践の場として2019年7月に誕生した「point 0 marunouchi」では、毎年30~40の実証実験が実施され、いま、小さな「点」から大きな「円」へと成長を遂げている。昨年に続き、同スペースを訪問したForbesJAPANWeb編集長の谷本有香(以下、谷本)は、そんなpoint 0の現在地点について、石原隆広氏(以下、石原)、豊澄幸太郎氏(以下、豊澄)、菅波紀宏氏(以下、菅波)にさまざまな視点から話を聞いた。
まず、実証実験の成果もさることながら、この1年間で何がもっとも変化したのか?そんな視点から、話を切り出した谷本に石原が答える。
「基本的なpoint 0のコンセプトは変わらないものの、スタート時と大きく変化しているのが『出口』です。スタート時は実証実験を通して新しいものを生み出すという意識や、コミッティー企業の事業化や商品化に役立つものにしていくという視点が強かったのですが、ここ1年はpoint 0独自の事業やサービスを創出し、そこで収益を上げていくことを主眼にしています。同時に、コミッティ企業がpoint 0独自の事業に参加することで、新しい販売チャネルの獲得や、新しい顧客と出会えるという仕組みが確立しました。それが、もっとも大きな変化です」

このことは豊澄も同様の感想を抱く。
「いままでは各社がそれぞれに新しいことをしたいという思いが強かった。ところが、ここ1年ぐらいは各社の真ん中にpoint 0がいて、積極的に企業間の橋渡しをする役割を担ってきました。そしてpoint 0がゴールを設定、目指すべき出口を提示したことで、各社が一緒になってそこに向かってソリューションを考えていく。そんな新しいビジネススキームが生まれています」
2人が言う出口のひとつが2021年4月に開設した「point 0 satellite」である。個室型サテライトオフィスとして、現在、東京、関西などで直営店やパートナー企業と共に複数店舗を展開しているが、実は、「point 0 marunouchi」で実践してきた数々の実証実験の成果が活かされている。
「植栽をふんだんに使った空間づくり、集中できる空調や環境音など、point 0 marunouchiで得たノウハウをsatelliteで活用しています。satelliteで得られるデータをmarunouchiにフィードバックし、改善していくサイクルも確立しました。これだけの数の企業が集まり、3年でビジネス創出までつなげられたことは大きな収穫だと考えています」(菅波)
「point 0 satellite」を展開する中で、空調機器や音響機器、什器などコミッティ企業の製品が投入されることになり、各社は「point 0」経由で新しい顧客や収益源を獲得。「point 0」発の新事業が創造され、その事業自体がコミッティー企業にも収益をもたらすという新しい循環が生まれているのだ。
独自のオープンイノベーション
実証でスタートしたにもかかわらず、わずか3年で新しいビジネス創出に成功した原動力は何なのか。そんな興味を抱いた谷本は、従来のオープンイノベーションと、「point 0」だからできるオープンイノベーションとの違いはどこにあるのか。そして、企業連携の際にはどうしても技術優先になり、忘れられがちになるユーザー目線をどう獲得しているのかを尋ねた。
「これまでの一般的な企業間連携は、1社がリードして、そこにいくつかの会社が専門領域の技術を提供する形。リードする企業が出口を定めることが多く、限定的なアウトプットしかできない面がありました。ところがpoint 0が関わることで出口がいくつにも増えて、より多くのビジネスが可能になるのは大きいと感じています」(豊澄)
菅波も次のように述べる。
「1対1のオープンイノベーションをいくつか経験してきた立場から見ると、多くのコミッティーが存在するという点は大きな強みだと感じています。17社の専門領域があるからこそ、挑戦できる範囲が広がりますし、ひとつのプロジェクトが次のプロジェクトのアイデアの種になるなど、どんどん発展していく。そんな好循環が生まれるのもpoint 0の強みだと思います」
そしてユーザー視点の獲得という面では、「point 0 marunouchi」の存在が大きな役割を果たしているという。「コミッティ企業はユーザーでもあり、ユーザーとしての彼らの意見が次々に上がってくるので、スピード感を持って対応しています。メーカー1社では難しいことも、それぞれの専門領域を持つ複数社が常にここにいるからスピーディーな対応も可能になる。そんなメリットがあります」(石原)
これからのオフィスに問われるもの
「point 0 marunouchi」を開設した半年後には新型コロナウイルスが日本国内でも広がっていった。働き方を「再定義」するという目標を掲げ、共同の実証実験やワーキンググループ活動を行ってきた「point 0」にとっては、思わぬ逆風が吹き荒れたといっても過言ではない。そんな状況をどのように乗り越えてきたのか、そしてwithコロナによってオフィスの価値はどう変化しているのかを谷本が聞いた。
「得られるものもあったと考えています。新型コロナウイルスが蔓延しなければ、サテライトオフィスの需要もなく、point 0 satelliteも生まれていなかったはずです。もっと大きな視点から言えば、在宅で働くことを経験して、多くの人が住むために快適な空間、あるいは働く環境の重要性など、『人生の質の大切さ』を感じたはずです。そういう意味ではpoint 0 marunouchiは日本のウェルビーイングの最先端であると自負していますので、質の高い人生や働き方に寄与できるサービスを創造できると考えています」(石原)
その言葉通り「point 0 marunouchi」では、シャワールーム、フィットネスジム、仮眠室など、人生の質の高さに寄与できる設備を備えている。オフィスに付加価値を加えることで、かつての「強制的」な出社から、目的を持って「自発的」に出社する意識へと転換していくはずだと石原は言う。また、菅波もオフィスに求められる機能が変化していると指摘する。
「リアルの良さも再認識され、リアルで接することのできるセンターオフィスは不可欠だと思います。ただ、単に作業する場ではなく、人とつながり、コミュニケーションを取る場という意味合いが強くなる気がします」(菅波)
次のステージでpoint 0が目指すこと
独自のサービスを創出し、新しいステージに入った「point 0」。さらに進化していくために必要なピースは何か?その点について谷本が問うと、石原は即座に2つの課題を上げた。それが「スピード」と「ソフトウェア」である。
「まだまだスピード感が足りないと感じています。新しいビジネスやサービスを生み出していくためにはベンチャーに負けないスピード感でプロジェクトを推進していける組織にしたいと考えています。もう一つはコミッティの大部分がハードに関わる企業なのでソフト面での知見が足りない。とくにITと食は不可欠です。point 0 marunouchiでは、設備や什器に膨大なセンサーを使ってIoTを実践しながらデータを取得していますが、ネットワーク環境を整備する専門家の必要性も痛感しています。また、食の分野は欠かせないピースだと考えています。そうした企業の参画で新しい化学反応が起こることを楽しみにしています」(石原)
新しい分野の企業が参画することで、さらに共創分野が広がることは間違いない。加えて、「人材」という観点からも次のステージを模索する。
「次の世代をどう育てていくかというのも、今後の課題だと考えています。point 0の活動をサステナブルにしていくためには、事業を育てながら人材も同時に育てていきたい。とくに周りを巻き込みながらオープンイノベーションを推進していくPMができる人材を育てて、それをコミッティ企業に還元していく。そんなことが可能なのは多くの大企業が集まって共創しているpoint 0だからこそできる役割だと考えています」(豊澄)

このように新しいコミッティ企業の参画と次世代を担う人材が育つことで、新たなステージを拓く。そんな戦略を描く石原は、最後に目指すべき姿を次のように語った。
「point 0が中心になって収益を上げていく事業をいくつも作っていく。それが次のステージの目指すべきところ。その時に対象はオフィスに限らなくていい。オフィス外に向けて様々なソリューションを提供していきたいですね」(石原)
たにもと・ゆか◎Forbes JAPAN Web編集長。証券会社や金融経済アンカーを務めた後、アメリカでMBAを取得。2016年に『Forbes JAPAN』に参画。主な著書に、『アクティブリスニングなぜかうまくいく人の「聞く」技術』(ダイヤモンド社)など。
いしはら・たかひろ◎point0 代表取締役社長。国内大手ERPベンチャーを経て、2013年に Fintechベンチャーを起業。17年にダイキン工業に入社し、「CRESNECT」プロジェクトに 従事。19年2月、point0を設立し、同代表取締役に就任。
とよずみ・こうたろう◎point0 取締役副社長。松下電工に入社後、大規模再開発プロジェクトやオリンピックプロジェクトの技術営業を担当し、現在は非住宅分野における「アップデート事業」の社内外共創に従事。2019年7月から現職。
すがなみ・のりひろ◎point0 取締役副社長。2005年丹青社入社。営業、経営企画統括を経験し、企画開発センター 企画部部長として、マーケティング活動全般および、オープンイノベーションによる商品開発等に従事。2021年6月より現職。



