ビジネス

2022.10.27 16:30

「クルマではなくHonda」を買ってもらう。ワイガヤ文化の再構築で挑む第二創業


ワイガヤ文化の復活で革新を生む


22年4月、三部は組織体制を再編した。事業領域は四輪事業と二輪・パワープロダクツ事業の2事業本部に変更し、新たに事業開発本部を発足。本田技術研究所と連携しながら、電動コア技術やソフトウェア開発などを強化していくという。

一方で、「本質的なものを生み出すのに必要なのは、組織という箱ではない。Hondaにとっていちばん効果的なのは、ワイガヤ文化を復活させることだ」と三部は言う。

ワイガヤとは、年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤと腹を割って議論するHonda独自の文化だ。合意形成を図る場ではなく、新しい価値やコンセプトをつくり出す場として、徹底的に意見をぶつけ合う。業界初、世界初といった数々のイノベーションもワイガヤから生まれた。

「Hondaが目指す組織のあり方として『強い個人の共鳴を通じた相互主観性の構築』なんていうカッコいい言葉を使っていますけど、要はワイガヤ文化をもう一回やりましょうということです」

三部自身もまた、エンジニアとしてワイガヤから世界初を生み出した実績のもち主だ。1990年代に米カリフォルニア州のLEV-II SULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)規制をクリアするエミッションシステムの開発を任された。会社から与えられたミッションは、「技術もスピードも世界一であること」。そのために必要なメンバーは自らリストアップし、開発から交渉まで全部やった結果、世界初のシステムを送り出すことができた。

「そのときに感じた働きがい、達成感はものすごくて。当時のメンバーとはよく話をします。いまいるHondaの従業員にも、できるだけ若い時期に権限移譲して、大きなハードルを越える挑戦をさせる。その修羅場を経験した人は、次からはもう何の心配もいらなくなる。本質をとことん考え抜き、挑戦する過程のなかで自問自答し、目標に挑む。そういう場をつくることが大切だと思います」

そして何より、会社が成長していく方向性を明確に示すことが、従業員を含めたマルチステークホルダーに支持されるためには欠かせないと三部は言う。

「正解がないからこそ、トップが意志をもって決める。うちの従業員は優秀で熱量が高いので、方向性をしっかり示せば勝ち残っていけると信じています」

本田技研工業◎1948年に本田宗一郎が静岡県浜松市に創立。主要事業は二輪車、四輪車とパワープロダクツ(除雪機、芝刈り機、発電機など)。ホンダジェットは小型ジェット機カテゴリーで5年連続デリバリー数世界第1位を達成。

三部敏宏◎1961年生まれ。広島大学大学院工学研究科修了後、本田技研工業に入社。エンジニアとして第一線で活躍した後、本田技術研究所社長、本田技研工業専務取締役などを経て2021年4月から代表取締役社長、同6月から現職。

文=藤野太一 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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