楽園ハワイのお受験事情 父親が日本へ「逆出稼ぎ」も

家族で海を眺める。でも父親はきっとため息をついているに違いない。(C)HTA/ Tor Johnson


年間3万ドル近い両名門校の学費


さて、ここまでくるとお気づきかもしれない。名門校に入学するまでに、受験準備だけでかなりの経費がかかるのである。TLC for Kidsと高橋塾の費用にプリスクールの費用、どれも私設なので費用はバカにならない。いや、ハワイで教育の費用のことを考えてはいけない。抜け出せない蟻地獄のごとく、費用のことを考え出すと思わずダークサイドに落ちていってしまうのだ。

それだけではない。仮に見事に私立名門校に入学できたとする。それはめでたいことだが、さらに費用が必要だ。両校の学費を紹介しよう。プナホウスクールが2万8960ドル。イオラニスクールは2万7175ドル、いずれも1年間の学費である。

さらに、イオラニのボーディング(全寮制のことで高校からが対象)となると、学費は寮費を含めて年間6万1200ドルとなる。あえて日本円には換算はしないが(汗)、これを毎年払っていくことになる。

平均年収が約5万ドルといわれるハワイで、年間3万ドルの学費を求められるのだから、何とも複雑な思いがする。実は、プナホウやイオラニには、コロナ禍で親が仕事を失ったり、年収が減少したりして、学費が払えずに退学した生徒も多くいたそうだ。子どもの教育にそれこそ「全て」をつぎ込んでいる家庭も少なくないのである。

さらに、最近はこんなファミリーもいる。子どもには英語教育を受けさせたい、ハワイでのびのびと育てたい、そんな思いで「教育移住」する日本人ファミリーが増えている。現地のビジネスを買収するなどさまざまな苦労をしてビザを取得するのだが、家族が全員揃ってハワイに移住できるのはごく一部。まとまった資産を稼いだ富裕層に限られる。それ以外となると、ハワイでいきなり生計をたてるのは難しい。そのため、父親は日本でそれまでの仕事を維持している場合も多い。


撮影:岩瀬英介

すると、どうするか。母親と子どもだけの楽園ハワイ生活となる。子どもに英語教育を与え、母親はクルマで毎日学校まで送り迎え。その間、父親は日本でせっせと稼いで教育費や生活費を送る。たまの休暇にハワイに来て、ようやく一家団欒を楽しむことになる。これではまるで「逆出稼ぎ」ではないか。

しかし、こんな「逆出稼ぎパパ」がハワイには増えているのである。「孟母三遷」ならぬ「忙父散々」といったところだ。いや、笑えない。「楽園ハワイでのびのび子育て」の代償は、あまりに大きいと言える。

筆者も人ごとではない。先日、娘の大学の学業資金を積み立てようとハワイの金融機関に相談に行った。いま、娘は4歳。「大学進学となると15年後ですね」とラップトップを操作しながら銀行の担当者が資金プランをつくってくれたのだが、驚くなかれ、その試算では15年後のアメリカの大学の学費は年間10万ドル(約1470万円)を超えていた。

いやダメだ、やはり日本円に換算してはいけない。こんな魔の学費スパイラルのなかで、ハワイの子育ては進んでいくのだ。筆者は、今日も楽園の海と真っ青な空を眺めながら、笑顔でため息をつく。とほほ。

文・写真=岩瀬英介

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