集中治療室でのせん妄発生を音楽で減らせるか、米で試験開始

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病院の集中治療室(ICU)で治療を受けた人の多くが意識障害の一種であるせん妄を発症する。幻覚は入院生活をよりトラウマとなるものにし、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や記憶喪失などICUを出た後の合併症のリスクを高めることさえある。しかし、米インディアナ大学の研究者たちは現在、音楽を聴くことでせん妄の影響を軽減できるか、あるいはせん妄の発生をそもそも予防できるかを調べる臨床試験を行っている。

ICUに入院している間になぜせん妄が起こるのかは完全に解明されていないが、人工呼吸器を装着している患者に多く見られることはわかっている。これは長年にわたる問題だが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時には当然のことながら悪化した。

英紙ガーディアンの2021年の記事の中で、集中治療心理学者のドロシー・ウェイドはICUで人々が見ていた怖い幻覚のいくつかを紹介している。ウェイドは「昨夜、運搬係がスーパーマーケットの台車で私を地下に連れて行った。そこでフードをかぶった僧侶に出迎えられ、魂を奪われ、ゾンビにされた。目が覚めたら棺桶の中にいた」というある患者の言葉を紹介した。

このような幻覚は通常、ICUから出ると消えるが、影響が長引くこともある。ICUで治療を受けた後に長期的な記憶喪失やPTSDを発症する人もいる。

リゲンストリーフ研究所とインディアナ大学医学部に籍を置くババール・カーンは長年にわたってICUせん妄を研究してきた。カーンは以前、ICUスタッフが患者のせん妄の重症度を評価するのに役立つ「CAM-ICU-7」という方法を開発した。それだけでなくカーンはせん妄を未然に防ぐ方法も探している。

カーンや同僚は、ICUで人工呼吸器につながれた患者が音楽を聴くことでせん妄を発症する確率を下げられるかどうかを調べる臨床試験を開始した。このアイデアはいきなり出てきたわけではない。研究チームは以前、患者にオーディオブックやゆっくりとした音楽、あるいは患者自身が選んだ音楽を聴かせるという研究を行った。その結果、ICUで音楽を聴かせることは良い結果を招く可能性があることがわかり、今回の試験ではゆっくりとした音楽がどの程度効果があるのかを正確に測定することを目的としている。

ゆっくりとした音楽は人工呼吸器をつけているときの不安を軽減する効果があるが、今回の新しい研究では1日2時間、1週間にわたって音楽を聴いて患者のせん妄の発症が何日短くなるのかも確かめる予定だ。

リゲンストリーフ研究所への声明の中でカーンは「音楽が機器の補助で呼吸をしているICU患者のせん妄を減らすことをしっかりと立証するためにこの試験を行っており、抗せん妄療法としての音楽が全国のICU患者の標準治療になることを目標としている」と述べた。

試験の結果が出れば、ICUのスタッフが患者に音楽療法を提供するかどうか決めるのに使えるかもしれない。しかしこの研究がなくても音楽はすでにICUでの不安を軽減しており、入院生活をより耐えられるものにするために患者に音楽を聴かせても損はない。音楽がせん妄発症の可能性を減らすのであればなおさらだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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