アカデミー賞有力候補 愛と友情の物語「アムステルダム」

「アムステルダム」(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved


物語のキーともなるヴァレリー役のマーゴット・ロビーも、自由の街であるアムステルダムを象徴するかのような奔放な看護士を演じたかと思うと、一転、訳ありのミステリアスな役どころもこなし、これまでの彼女の出演作品のなかでは最良の部類に入る密度の濃い演技を見せている。

その他にも、アーティストのテイラー・スウィフト、「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)のフレディ・マーキュリー役でアカデミー賞の主演男優賞に輝いたラミ・マレック、こちらもラッセル監督の作品ではおなじみのロバート・デ・ニーロなどが、それぞれの場面で好演を見せている。


(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved

また、アカデミー賞絡みでいえば、今年の授賞式でウィル・スミスの妻にジョークを飛ばして、スミスから平手打ちされて物議を醸したコメディアンのクリス・ロックも出演している。「アムステルダム」の撮影は2021年に行われているため、もちろんその話題があったためにキャスティングされたわけではない。

ラッセル監督のアカデミー賞への「本気度」がわかるのは、撮影監督にメキシコ出身のエマニュエル・ルベツキを起用している点だ。

ルベツキはこれまで8回もアカデミー賞の撮影賞にノミネートされており、特に第86回の「ゼロ・グラビティ」(2013年)から「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)、「レヴェナント:蘇りし者」(2015年)と、史上初の3年連続で撮影賞を受賞している。

ルベツキがラッセル監督とタッグを組むのは今回が初めてだが、画面に引き込まれていくような流麗なカメラワークは「アムステルダム」でも健在。物語の主役である3人が並ぶシーンでは、何度も下から仰ぎ見るようなショットを駆使して絆の強さを表現している。とても印象に残るシーンだった。


「アムステルダム」は10月28日(金)より全国ロードショー(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved

ラッセル監督は、ニューヨークで開催された「アムステルダム」のワールドプレミアで次のように語っている。

「この映画は、私とクリスチャン・ベールで5年の歳月をかけてつくり上げてきました。そこにマーゴット・ロビーとジョン・デヴィッド・ワシントンなど素晴らしいキャストが加わってくれた。陰謀と殺人の物語ではありますが、その対極にある愛と友情、そしてロマンスの物語でもあります。

これまで私はいつでもアウトサイダーを描く映画、厳しい状況に立たされながらも瞳には煌めきを宿した人たちの映画をつくったきました。人生を愛している気持ちがあれば、人は友人を大切に思い、互いに忠実であり、さまざまな試練のなかにも素敵な”魔法”を見出すことができるのです」

アカデミー賞の常連監督が、まさに渾身の力を込めてつくり上げた作品。ノミネートや受賞などに関係なく、観応えのあるクオリティ高い作品に仕上がっていることは確かだ。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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