「アムステルダム」は、世界恐慌の渦中にあった1933年のニューヨークから始まる。医師のバート(クリスチャン・ベール)は、友人の弁護士ハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)から、ある遺体の検死を依頼される。
バートとハロルドは第一次世界大戦に従軍した戦友で、遺体は彼らが戦場で絆を深めるきっかけとなった上官のミーキンズ将軍だった。将軍の娘であるリズ(テイラー・スウィフト)が、父親の突然の死に不審を抱き、ハロルドに死因の調査を頼んできたのだ。しかし、将軍の死因が判明するなかで、バートとハロルドはある事件に巻き込まれ、殺人犯に仕立て上げられてしまう。
時代は遡り、かつてヨーロッパの戦場で重傷を負ったバートとハロルドは、従軍看護士のヴァレリー(マーゴット・ロビー)という女性に手厚い介護を受けた。彼女の紹介で、3人はオランダのアムステルダムで、右目の眼球を失ったバートのために義眼を調達する。
すでに入院中から意気投合していた3人は「どんなことがあっても互いを守る」と誓い合っていたが、戦場とは異なるアムステルダムの自由な空気のなかでさらに絆を深め、独身のハロルドはヴァレリーと愛し合うようになる。しかし戦局が進み、バートは妻の待つアメリカに戻り、ヴァレリーも突然、姿を消してしまう。
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再び、1933年のニューヨーク。降りかかった殺人犯という濡れ衣を晴らすため、バートとハロルドはミーキンズ将軍の娘リズが話していた資産家であるトム(ラミ・マレック)の屋敷を訪ねる。そこで、2人はアムステルダムで消息を絶ったヴァレリーと再会する。彼女はトムの妹で、実は、ミーキンズ将軍の死の裏には、世界を震撼させる恐ろしい陰謀が隠されていたのだった。
物語は、戦場で誓い合った男女3人の友情と、世界恐慌とともに進行する巨大な陰謀が、かなりの「力技」で絡み合いながら、壮大なクライムストーリーへと展開していく。
その社会や歴史に対する視点は、いかにも硬派なラッセル監督らしい。とはいえ、場面転換のテンポの良さと劇中に散りばめられたウイットに富んだセリフで、退屈することなくエンドマークまで連れていかれる。
最初に「ほぼ実話」とクレジットされているが、ベースになったのがあまり日本では知られていない史実だけに、その「ほぼ」がどの程度なのか、またどれだけフィクションが加えられているのかはわからない。とにかく、にわかには信じがたい巨大な陰謀へとこの戦場で出会った3人が導かれていく語り口にはなかなか鮮やかなものがある。
撮影監督の起用にも「本気度」
出演しているキャストの演技も素晴らしい。主人公のバートを演じるクリスチャン・ベールはラッセル監督の作品ではすっかりおなじみだが、同監督の「アメリカン・ハッスル」で見せた禿頭で腹の出た詐欺師に勝るとも劣らないユニークで味のある義眼の医師役を演じている。