子どもを長く苦しめる症状の最たるものが、小児性の呼吸機能障害、つまり、息切れや息苦しさだ。
しかし、新型コロナウイルスへの感染後に生じる小児の呼吸機能障害については、詳しい研究が少ないうえに、診断を下すための客観的基準が明確でないため、なかには心因性だとみなす医師がいる。肺活量を測定して、標準という結果が出た場合には、なおさらそう判断しがちだ。
米アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)が発行する「ジャーナル・オブ・アラジー・アンド・クリニカル・イムノロジー(The Journal of Allergy and Clinical Immunology)」で2022年9月に発表された最新研究は、患者の転帰ができるだけ良好となるよう、肺活量の測定だけにとどまらず踏み込んだ検査を行い、心理的な要素に原因があると思い込まないことが重要だと強調している。
では、研究で紹介されたケーススタディの概要を説明しよう。患者は17歳のジョン(仮名)だ。
2020年11月、ジョンはのどに痛みを感じた。翌日になると、咳と腹痛、筋肉痛という症状が出始め、胸部の圧迫感を覚えた。迅速抗原検査を受けたところ、新型コロナウイルス感染症の陽性反応が出た。
感染してから3週間、ジョンは疲れやすくなっていることに気がついた。ひどく息が切れ、運動もろくにできない状態が、それから5カ月も続いた。
ジョンは、プライマリーケア(一次診療)を行う医療機関を受診し、フルチカゾン定量噴霧式吸入器(110μg)と、アルブテロール定量噴霧式吸入器を処方された。どちらも、喘息など呼吸器疾患の治療に広く使われているものだ。のちに、サルメテロール・フルチカゾン定量噴霧式吸入器(115μg)に切り替えた。
ジョンは治療を始めたことで、運動への耐性が改善したことに気がついた。ウォーキングマシンで、息切れすることなく5分間も連続で歩けるようになって安心した。
ジョンには、喘鳴の発作や反復性気管支炎の既往歴がない。喘息と診断されたこともなく、23のエアロアレルゲンについても、アレルギー反応は出なかった。重い不安やうつもない。では、ジョンに何が起きたのだろうか。