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2022.10.26 11:30

ダイバーシティは必要条件 LIXIL社長が描く「誰もが活きる会社」

LIXIL 取締役代表執行役社長兼CEOの瀬戸欣哉

LIXIL 取締役代表執行役社長兼CEOの瀬戸欣哉

発売中の「Forbes JAPAN」2022年12月号の特集「人と社会を活かす会社100」では、東証プライム上場企業を対象に「ステークホルダー資本主義」「人的資本」「ダイバーシティ」「気候変動対策」「持続可能性」「働きがい」「非財務情報開示率」の7つのランキングを作成した。

サステナブルな会社ランキング「ダイバーシティ度」部門1位に輝いたのは、LIXIL(リクシル)だ。「D&Iの目的はインクルージョンにある」とする瀬戸社長が考える「理想的なあり方」とは。


2011年の誕生以来、リクシルにとって長年の課題のひとつが求心力だった。同社はトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの統合で生まれた会社。海外M&A(合併・買収)にも積極的で、米アメリカンスタンダードや独グローエなどの企業を統合。また、18年にはCEO解任劇が起きて社内が分裂。

騒動を乗り越えた瀬戸欣哉社長が株主総会後に「今日からワンリクシル」と語ったように、成長のためにはひとつにまとまることが欠かせなかった。一方、同社はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)にも力を入れている。多様性の促進は、逆に遠心力として働きかねない。ワンリクシルとD&Iというアンビバレントなテーマに、返り咲きの社長はどう取り組んできたのか。

──ワンリクシルと多様性は、やり方を間違えると衝突しかねない。どうやってバランスを取ったか。

瀬戸欣哉(以下、瀬戸):統合した旧5社や海外企業にそれぞれ暗黙知があり、それを知らないと仕事がやりにくいという状況では、一緒にやっていくのは難しい。かといって、積み重ねてきた価値観を否定するのもよくない。

参考にしたのはローマ文明だ。長く心に刻まれてきたものが「文化」とすると、人工的な共通点を探すのが「文明」。ローマ文明後期は、宗教や人種にかかわらず、ラテン語が話せ、税金を払い、法律を守っていればローマ人とした。つまり文化は違っても、文明を共有することで国としてまとまっていた。

リクシルも「LIXIL Behaviors」という3つの行動──「正しいことをする」「敬意を持って働く」「実験し、学ぶ」──さえ守ればいいことにした。それ以外の明示されていないものはルールではないので一人ひとりがそれぞれの価値観でやっていい。

そうすることで、違う組織の人同士が仕事しやすくなった。これは多様性の面でも重要だ。男性が遅くまで働き、夜もお酒を飲みに行ってコンセンサスをつくる職場では、女性は活躍しづらい。「暗黙知を常識にしない」ことがD&Iにつながっていく。

──なぜD&Iに力を入れているのか。

瀬戸:我々は世界で毎日10億人の生活を支える商品を販売している。会社の中に社会の状況を反映する人がいなければ、すべての人に喜んでいただける商品はつくれない。例えば体の不自由な人が社内にいないと、身障者にとってどのようなキッチンが使いやすいのかわからない。

マイノリティのために開発するとビジネスにならないという見方は間違いだ。世界人口の約15%にあたる人びとには障害がある。それより少数に見えるのは、社会にインクルードされていなく、表から見えにくいからだ。また、実際に少数でも、誰かの悩みに応える商品は無限の可能性をもつ。車いすの方のためにつくったキッチン「ウエルライフ」は、高さが低いので今年84歳になる私の母も使いやすく、体が重くて座って調理をしたい私のような男性にも便利。

最初から最大公約数を狙った商品より、少数の声に応える商品がかえって大きな広がりをもつことも多い。
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文=村上敬 写真=若原瑞昌

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