向き合って何を思うか? アートに触れるというウェルビーイング

作家・画家の大宮エリー(左)、「こゆ財団」代表理事の齋藤潤一(右)


齋藤:僕は実はエリーさんの作品が大好きで、特に絵本は2歳の娘に読み聞かせたりしています。文字が多いものの、絵が人々の感情を刺激するのか、すごく楽しそうに読んでいます。
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アートを好きな理由は、アートは言語を超えるから。その意味で考えると、ウェルビーイングを無理やり定義する必要はないように感じます。たとえば、アートを見たときの情動にいかに向き合うかも、ウェルビーイングと言えるのではないでしょうか。

谷本:ウェルビーイングとして語られる健康や幸福も、解釈や意味は多岐にわたります。個人の考えるウェルビーイングを探るためには、“対義語”を考えるのがヒントになるかもしれません。

大宮:私は「あきらめる」という言葉が、まず思いつきました。あとは、「工夫しない」ですね。今回で言えば、リソースが限られる中でこのイベントをよりよい時間、環境にするために、あきらめなかった結果、トーク会場に原画を飾って楽しんでもらえたらどうかというアイデアが浮かびました。
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谷本:最近Z世代の子供たちにインタビューをした際、同じような言葉が聞かれました。彼らは効率や合理性を求めるのではなく、手触り感に代表される人間らしさをあきらめずに重要視しているそうです。

大宮:インターネットに慣れ親しんだ世代が手触り感を重視するのは、面白いですね。

齋藤:僕が思うウェルビーイングの対義語は「ウェルドゥーイング(well doing)」ですね。「ドゥーイング=する」なので、いい意味に聞こえるものの、その一方で心を消耗していたりもします。

例えば満員電車。時間通りに通勤するのはウェルドゥーイングなことですが、その身体的な苦痛から心を病んでしまう可能性もあります。一見よいことをしているように思えてしまうことこそが、人間らしさを失わせているかも知れません。

谷本:心のあり方が重要になってきそうです。



齋藤:その通りですね。アートもスマホの画面で見るのではなく、直接目にすると、凹凸や筆遣いなどの細かい気づきが得られ、アーティストと会話するかのように、脳や心が揺り動かされます。今後は人の心の情動をいかに大事にするか、という時代になっていくのではないでしょうか。

谷本:エリーさんはウェルビーイングとアートの親和性はどのように考えますか。

大宮:アートは投資対象にもなったり、人によって捉え方は様々ですからね。コロナ禍で海外渡航が難しいなか、「リゾートをテーマにした展覧会をしてほしい」という依頼を受けました。その会場で、初めてアートを購入するという若い女性との会話をしたことが印象に残っています。

その女性はこれまでブランド品ばかりを集めていたそうですが、ふと、「家に絵があったら幸せではないか」と考えたそうです。ところが選び方がわからないから、「どんな絵がいいですかね」と相談されました。私は、「自分がいいと感じた絵でいいんです」と答えたんですね。これこそ、ウェルビーイングとアートの関わり方だったのではないかと思います。
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文・写真=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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「ウェルビーイング」の実践

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