琥珀の可能性とは?
クレイ:その思いが、どのようにして琥珀につながっていったのですか?
山野:30歳のときにたまたま足を運んだジュエリーの展示会で、琥珀でつくられた布団を見たんです。最初見たときは、「なんだろう、これは」と思いました。だって、琥珀の上に寝転がったら痛いでしょう。こんなものが布団になるのか、と思って妙に気になってしまって、後から自分でいろいろ調べたんです。
すると、ロシアではこの琥珀の布団を治療に使っているという情報を得たんですね。調べれば調べるほど、「琥珀を使って新しい商品をつくれるんじゃないか」と思うようになりました。あとは、若さと勢いです。そのまま現地に行くことを決めて、現地での琥珀の使われ方を視察することにしました。
ロシアのカリーニングラードというバルト海に面した地域が琥珀の産地として有名な場所なのですが、現地で初めて入った薬局で目にしたのが、琥珀を粉末にして精製した健康食品でした。何に効くのか尋ねると「肝臓や内臓疾患をケアするのに使うんだ」という答えが返ってきた。さらに現地の一番大きな療養所を訪ねたら、例の琥珀の布団が治療に使われていたのです。聞けば、現地では琥珀には心を安定させたり、身体の不調を回復させたりする効果があるものとして使用しているらしいのです。
琥珀って日本では鉱物と思われていますが、実際は樹脂なんです。木から出てくるものが100%。薬のように科学的な物質ではなく、天然素材で体をケアすることができるのであれば、こんなに素晴らしいことはないなと思いました。ただし、ロシアではまだエビデンスをとっていなかったんですよね。そこで、帰国後に基礎研究を始めました。
クレイ:輸入したものを販売するという選択肢もあったと思いますが、研究することを選んだのは、エビデンスづくりのためだったんですか?
山野:そうですね。1億年前の虫や動物をそのままの姿で残せるという事実を考えたりしたとき、なぜそれができるのか、まずは理由を解明したかったんです。商品を発売するのであれば、テクノロジーの力で琥珀が体にいい理由を解明して、ちゃんと根拠のある商品を世の中に広めていきたかった。
クレイ:相当な時間と覚悟が必要だったのではないですか。
クレイ勇輝(実業家、元キマグレン)
山野:最初の数年は琥珀の成分を解明するための基礎研究が思うように進まなくて、とにかく苦労しました。日本にある多くの化粧品は、ヒアルロン酸など原材料となるものを買って、それをもとに商品開発をするわけです。しかし僕は、そもそもの原材料をつくるところから始めようとしていたから、とても時間がかかりました。
研究を始めて3年か4年目になって僕が苦しんでいたとき、親が見るに見かねて「そういえば、理化学研究所が民間の企業と組んで研究をしているらしい」と教えてくれたんです。早速、一緒に琥珀の研究をしないかと相談しにいったところ、「実は自分も琥珀に興味がある」と声をかけてくださった先生がいて、美容の研究が本格化しました。その後、健康部門でも研究を広めるために筑波大学と組んで、大学内に本社を置くようになりました。このふたつの研究機関の力を借りながら、現在は商品の開発を進めています。