ビジネス

2022.10.25

味の素新社長が語るステークホルダーを導く「魅力的な泉」とは

味の素 取締役 代表執行役社長CEO 藤江太郎


「非財務が充実してくると、後から財務もついてきます。従業員や地球環境、株主、サプライヤー、顧客・消費者はすべて無形資産であり、ASV推進の原動力です。味の素の志への熱意や共感が高まり、無形資産が増えるほど、社会価値と経済価値を共創するASVが実現します」

志を実現するために、必要とあれば同業他社とも手を組む。例えば物流だ。

24年4月から車の運転業務の時間外労働の上限規制が適用される。食品の物流は日付管理が複雑で納品までのリードタイムが短く、荷役作業が多いなど、運送業者への負担が大きい。そのうえに残業規制が設けられると、配送できる食品の絶対量が減る可能性がある。これは食品業界にとって重大なリスクだ。また、物流には環境負荷がかかるという課題もある。

そこで「競争は商品で、物流は共同で」という理念の下、19年に味の素物流を中心にカゴメや日清フーズなど食品メーカー5社が共同出資し物流会社「F-LINE」を発足。持続可能な加工食品物流のプラットフォーム構築を目指している。

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藤江の執務室。「昔は捨てられない男で、机の上は書類だらけだった」が、社内の働き方改革担当を経て、いまでは整理整頓が習慣に。

「味の素グループには、業界共通の課題をまとめて、解決の旗振り役になる責任があると私は思います」

企業はいま、社内外の多くの目に晒されている。従業員や株主はもちろん、顧客や地域・社会からも、革新的な戦略と技術で地球市民としての役割を果たすことを求められる。その期待に応えなくては、持続的に成長することはできない。

だから藤江はマルチステークホルダーと共創し、適度な緊張感を保ちながら実力を磨き合い、相互シナジーでインパクトを最大化することを目指している。

「志を共有してもらえる方々に『幸せの素』をお届けして、さらに幸せになっていただく。そして、皆さんの幸せが企業価値の向上につながり、さらなる共感と熱意を生むという好循環をつくる。これが私の働きがいであり、生きがいです」

そんな藤江の朝のルーティンは2つある。ひとつは、ほんの数分立ち止まって物事に感謝すること。もうひとつは、鏡越しに自分の笑顔を見ることだ。

「自分が楽しくないと、周りも楽しくならない。だから、険しい顔になりそうなときも、なるべく笑顔を大事にしたい」

ひとたびオフィスに入れば、社員に気さくに話しかけ、時には膝を突き合わせて対話する。ASVを共有し、熱量を高め、皆で理想の未来を描く。

「でも、私の言いたいことはまだ1%も伝わっていないです」

最後にそう言って、藤江はにっと大きな笑顔を見せた。

「ネバー・エンディングですよね。終わりなき旅を楽しもうと思います」


味の素◎1909年に創業。「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」を志とし、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営を推進。2030年までに「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷50%削減」の実現を目指す。

藤江太郎◎大阪府出身。1985年に京都大学農学部を卒業後、味の素に入社。2011年フィリピン味の素社長、15年ブラジル味の素社長など10年以上の海外勤務を経て17年に常務執行役員、21年執行役専務、22年4月代表執行役社長CEO。同年6月から現職。

文=瀬戸久美子 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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