「どうせ無理」とつぶやく生徒たちを変えたブラック校則改正プロセス

千葉県立姉崎高等学校の生徒たち

およそ30年前、県の指導重点校に指定されるほど生徒指導が困難であった千葉県立姉崎高等学校。

学校を立て直すために校則は細かく規定され、少しの例外も許さない一斉指導が全国的に有名だった。その後、時代は変わり、生徒たちは落ち着いたにも関わらず、一部の校則は引き続き学校が荒れていた当時のままだった。

スカート丈や前髪の長さ指定、ツーブロック禁止、ワックスやリボンの使用禁止など、細部に及ぶ身だしなみのチェックが定期的に行われる。生徒は口々に不満を漏らし、学校には閉塞感が漂っていた──。

そんな姉崎高校が、この数年で大きく変化した。生徒たちは自信を持ち、イキイキと自分の意見を声にするようになった。教員は生徒たちを信頼し、これまで教員が細かく指示してきたことも生徒に任せるようになった。保護者や地域からの学校の評価も高まっている。その大きなきっかけのひとつとなったのが、「みんなのルールメイキング」という取り組みだ。

「ここは監獄みたいなところ」


2019年4月、姉崎高校に社会科の新任の教員として赴任した山村向志さんは、初日に入学式で駐輪場の誘導をしていた時、生徒からこんなセリフを投げかけられた。

「先生、この学校は監獄みたいなところです。厳しすぎて学校が面白くない」

文化祭や体育祭の準備でさえ、「どうせ何か提案してもダメだと言われる」「めんどくさいからやりたくない」という声が聞こえ、「先生に怒られない程度にやればいい」という生徒もいた。生徒と教員の一部には精神的な対立構造ができていた。

山村さんは2年目を迎え、生徒会の顧問になった。当初は立候補する生徒もほとんどいなかったが、翌年には授業で生徒との信頼関係を積み重ね、意欲的な生徒たちが生徒会に手を上げてくれるようになった。2021年2月、SNSで「みんなのルールメイキング」という取り組みがあることを知り、生徒会役員に紹介したところ、全員がやってみたいと声を揃えた。

そのころ、髪の色、下着の色、過度な髪型規定など、「ブラック校則」がメディアで取り上げられるようになっていた。2021年には文部科学省も全国の教育委員会に校則の見直しを推奨。教員が中心となり校則の見直しや改正をする学校が増えつつある。人権をそこなう恐れのある校則は一刻も早い改正が必要だが、実はその「プロセス」にこそ、生徒、先生、学校が大きくポジティブに変わるチャンスが内包されている。

カタリバ主催「みんなのルールメイキング」


「みんなのルールメイキング」(以下ルールメイキング)は、認定NPO法人カタリバが主催している取り組みで、学校や自治体と連携して校則を見直すプロジェクトだ。注目すべき特色は、校則やルールの見直しだけを目的としていないこと。

代表理事の今村久美さんは「子どもの参画機会をつくるという場の設定に重きを置いている」と語っている。つまり、生徒が先生や保護者、地域の人たちと対話を重ね、納得できる合意にたどり着くプロセスと、それによって生徒自身、そして教師、学校に起こる変化が狙いだ。

生徒会役員が校長に概要を伝えると、校長はプロジェクトに賛成。現在の校長である加瀬直人さんは、姉崎高校が荒れていた時代に生徒指導主事を務めていた経験もある。十数年ぶりに学校に戻ると、生徒たちは落ち着いているのに校則が厳しくなっていることに疑問を抱いていたが、一つ条件を伝えた。

「先生が理解し、納得しなければ話は進まない。根拠のある説明をして話し合ってください」

それはまさに、ルールメイキングの目指すところだ。こうして、姉崎高校でルールメイキングの取り組みが始まった。
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文=太田美由紀

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