おそらくトラスの在任期間を最もよく表しているのは、顔が描かれたレタスがカレンダーの横でポーズをとっている画像だろう。レタスの鮮度とトラスのリーダーシップ、どちらが長持ちするかというゲームだ。最終報告時点ではレタスはまだ持ちこたえていた。
公正を期していうと、トラスはボリス・ジョンソンという滅茶苦茶な前首相によって混乱した政府を引き継いだ。トラスは議会だけでなく、英国中の保守党員の票を獲得したが、決して人気はなかった。共感的というよりロボット的だと批判されたが、フランスの大統領エマニュエル・マクロンをはじめとする男性のリーダーたちは生まれも育ちもテクノクラートでありながら冷静にやってのけている。
闘争心
辞任前日、トラスはサッチャー風の顔をしながら「私は闘争する人間だ、臆病者ではない」と述べ、勇敢にも兵士のように前進することを決めた。トラスを馬鹿にするのは簡単だが、トラスが辞任したのは個人の弱さの表れではなく、むしろ政府の生き残りのためだった。
辞任を表明するトラスのコメントはその理由を、野心から始まり失敗で終わるというかたちで表している。
私は経済的にも国際的にも不安定な時期に首相に就任した。
家庭も企業も経済に不安を感じていた。
プーチンのウクライナでの違法な戦争は英国全体の安全を脅かしている。
そして、我が国はあまりにも長い間、低い経済成長によって抑制されてきた。
私はこの状況を変えることを使命として保守党から選出された。
我々は光熱費対策と国民保険料の引き下げを実現した。
そして、ブレグジットの自由を活用した低税率、高成長の経済についてのビジョンを打ち出した。
しかし、このような状況では保守党から託された使命を実現することはできないと認識している。
したがって、私は国王陛下に保守党の党首を辞任することを報告した。
直接的で、正直でそして簡潔だ。かつての英首相ウィンストン・チャーチルは若い国会議員に「立ち上がれ。話せ。黙れ」とアドバイスした。リズ・トラスは間違ったタイミングで間違った動きをしてお手上げになった人物として、そしてエリザベス女王に迎えられた最後の首相として記憶されるだろう。
威厳
トラスは英雄ではないが、辞意を表明したことは称賛に値する。あざけりではなく、むしろジョークの中で退場するだろう。トラスは自分の野心よりも弱体化した党と国を優先させるために憲法の原則を十分に尊重した。その点で、トラスはある程度の敬意を払われるに値する。
トラスは公正に扱われただろうか。おそらく、そうではないだろう。周囲が後任探しに奔走する中、トラスは失敗するよう仕組まれたのかもしれない。トラスが首相になったとき、官僚たちは自分たちのクラブで身の安全を確保し、お互いに少しウインクしあったかもしれないと推測できる。「ああ、彼女にちょっとだけ仕事をやらせて、それからプロ(男性)に戻せばいい」と。
リズ・トラスは最も在任期間の短い首相として歴史に名を残すだろうが、辞任の仕方は敬意をもって記憶されるべきだろう。党の意思を尊重し、静かに去っていった。トラブルに陥ったとき、他のリーダーも同じように身を処すだろうか。
(forbes.com 原文)