ハーバードの研究者が設立したブレインコンピュータ企業Axoftの挑戦

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今年初め、脳内に埋め込んだマイクロチップを通して、首から下がほとんど動かせない麻痺患者が文字入力によって意思を伝達することができたとする研究成果が、米スタンフォード大学脳神経外科の教授らによって発表された。かつては、SFの世界の話と思われていたブレインコンピュータは、今や現実のものとなり、多くの企業がこの分野で競い合っている。

最も有名なのはイーロン・マスクが創業したニューラリンクだが、この分野には多くの小規模なスタートアップが存在する。

その中でも、ハーバード大学の研究者のポール・ル・フロック(Paul Le Floch)が2021年に設立したAxoftは、柔らかく柔軟な素材を用いて、脳性麻痺患者のコミュニケーションを支援する脳インプラント技術の開発を目指している。Axoftは先日、ベンチャーキャピタルThe Engineが主導するラウンドで800万ドル(約12億円)のシード資金を調達したと発表した。

ル・フロック(29歳)は、彼の会社が他と違うのは「素材だ」と述べている。「この分野の主な課題は、エレクトロニクスと脳組織をどう統合させるかだ。インプラントに使われる材料を完全に見直す必要がある」と彼は話す。

人間の脳に一般的なシリコンチップを埋め込むと免疫系が即座に反応し、時間が経つとかさぶたのような組織が形成され、インプラントは機能を失ってしまう。この問題を解決するために、Axoftは柔らかいポリマーを用いたインプラントを開発したとル・フロックは說明する。

Axoftの脳インプラントは、米食品医薬品局(FDA)が画期的と認める医療機器の認証制度「ブレークスルーデバイス」の指定を受け、開発を加速させている。

Axoftは、2016年にハーバード大学の博士課程に在籍していたル・フロックの研究から始まったスタートアップだ。当時、彼はバイオエレクトロニクスシステムの基礎となる可能性を秘めた新しいタイプのソフトポリマーに夢中になっており、同大学でバイオエレクトロニクスを研究するジア・リュウ助教授の研究室に入った。

このとき、彼はリュウらとともにAxoftのインプラントの基礎となる技術のプロトタイプを開発した。彼らは、ソフトマテリアルが脳に瘢痕(はんこん)組織をつくらず、脳インプラントの可能性を広げることを発見した。

そして、ル・フロックは学問の世界からビジネスの世界へ飛び出す決心をし、リュウ教授らと共同で会社を設立した。「大学の研究室に閉じこもっていないで、できるだけ早く臨床段階に移行することが重要だと思った」と、彼は話す。

子供用の脳インプラントを開発へ


同社にとっての次のステップは規模の拡大だ。ル・フロックは、今回の資金をもとに、インプラントの前臨床試験の位置づけの動物実験を開始するとともに、チームを拡大する予定で、小児脳性麻痺の患者をターゲットにしようとしている。「成長期の脳に対応するインプラントを作るのは難しいため、子供用の脳インプラントを作る企業は他に存在しない」と彼は話す。しかし、Axoftの柔軟な素材であれば、そのような問題を回避できるかもしれない。

Axoftを支援する投資家も、同社のアプローチに期待している。「脳性麻痺や、うつ病の症状を持つ患者の脳にインプラントを埋め込むのは、奇妙なことではなくなるはずだ」と、The Engineのゼネラルパートナーのリード・スターテバントは言う。「彼らは、脳のインプラントを、心臓のペースメーカーと同様の当たり前のものにしようとしている」と彼は語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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