これらの道筋は、MITのステファニー・ウォーナー、ピーター・ウェィル、イナ・セバスチャンらの最新の共同研究『Future Ready: The Four Pathways to Capturing Digital Value(未来に向けて:デジタルバリューを手にするための4つの道筋)』で特定・検討されたものだ。著者らはBBVA、CEMEX、DBS、Fidelity、Maerskなどを含む1000社以上の企業の数年分のデータを調査し、その結果ほとんどの企業は特定の経路を選択するが、中には複数の経路を選択する企業もあると述べている。
以下に示したものが、デジタル領域へ至る4つの道筋だ。
道筋1 まずデジタル化を行い、それから顧客体験を考える
ウォーナーとその共同執筆者たちは、このアプローチを「工業化(industrialization)」と呼んでいる。まず、企業内のあらゆるものをデジタルに置き換える強制プロセスの採用から始まる。企業がこの道筋を選ぶのは、自社の顧客体験がすでに十分に優れており、競合他社を寄せつけないと判断した場合だ。目標は「会社が最も得意とすることに集中し、それらをデジタルサービスにすることで、業務を根本的に簡素化する」ことだ。ウォーナーと共著者は、この場合はまずデジタル運用の強みを構築し、次に「その強みを活かして迅速にイノベーションを起こし、顧客を喜ばせる」ようアドバイスする。
またこの道筋を歩む企業は、それを2つのフェーズに分けるべきだと、共著者たちは助言している。「まずプラットフォーム能力を構築し、次にその能力を迅速イノベーションで活用するべき」ということだ。しかし同時に「プラットフォーム能力の構築には時間がかかるので、顧客体験の面で大きく遅れをとっている企業の場合は、デジタル化だけを行っている余裕はないことが多い」と注意を促している。また、できるだけ早く、理想的にはプラットフォームの構築段階が終了するより前に、迅速イノベーションの段階を開始することを勧めている。「これにより、会社がデジタル化という下準備に費やす時間を短縮し、価値創造を加速させることができます」
道筋2 まず顧客体験を考え、次にデジタル化する
これは、カスタマーサービスがうまくいっていない企業や、競合他社が立ちはだかっている場合に取られる道筋だ。この道筋にも2つのフェーズがある:組織内で顧客の声を増幅させる施策の実施と、それに続くデジタルプラットフォームの構築だ。「お客様を魅了し、喜ばせるために、会社中のさまざまな分野のチームがそれぞれデジタル技術、より良いデータ、新しい働き方を用いてイノベーションを起こします。しかし、このようなイノベーションはすべて、製品やシステムの根本的な複雑さに対処しておらず、通常は事態を悪化させ、顧客へ届けるコストを押し上げることになるのです。また、この道筋は、最初のうちは、企業の他の部分に負担がかかります」