米国勢調査局の調べによると、過剰在庫は金額にして史上最高の7320億ドルに達している。全米各地の倉庫は、こうした売れ残りの商品ではち切れんばかりの状態だ。
7320億ドルという在庫金額は、前年比21%という大幅な増加だ。2021年の米小売業界の売上実績6.6兆ドルの10%以上にのぼる数字でもある。
この過剰在庫という重荷に加えて、これと比べると目立たないものの、返品された商品も、かなりの数が積み上がっている。さらには、循環経済を推進する動きや、高級品リセールへの人気も高まっていることから、ホリデーシーズン前の大幅値引きに向けた素地が出来上がってきたようだ。
小売業界では今、大規模な在庫調整が始まっている
各企業は、この膨大な在庫を片づけようと必死だが、景気の状況で見ると、この動きは、考え得る限り最も悪いタイミングと重なっている。米国経済は減速の兆候を見せている上に、インフレは長期化する様相で、景気後退がちらついている。こうした状況のもとで、将来に不安を覚える消費者の財布のひもは堅くなっている。
どうやら、2022年のホリデーシーズンは、ほぼあらゆるものがセールの対象となりそうだ。そうなった場合、来たる2023年には、赤字に陥る小売企業が街にあふれることになるだろう。
小売業界を専門とするコンサルタント、エレイン・クォン(Elaine Kwon)は先日、ワシントン・ポスト紙に対し「業界では切羽詰まったムードが日に日に強まっている」と述べた。
かつてアマゾン・ファッションの責任者を務めていたクォンは、これまで値引きをしない方針を貫いてきたブランドも「割引販売を始めるだろう」と予想する。「特にアウターウェアや冬物衣料、寒さ対策のアイテム、昨冬シーズンから引き継いだ在庫などについては、(中略)新作が入ってくる前に売りさばこうとする動きが出るだろう」という。
これらの過剰在庫に加えて、返品された商品についても、2021年には全購入額の16.6%(前年比56%増)という驚くべき割合に達した。このことから、在庫整理を請け負う企業にとっては、ゴールドラッシュと呼べる状況が生まれている。
コロラド州立大学経営学部のサプライチェーン管理部門の調査によると、昨冬の時点で、在庫整理業界の市場規模は6440億ドルに達していた。現時点ではさらに拡大していることは間違いない。
あらゆる大手小売企業は、返品された商品を、売れ残った商品とともに、メリーランド州ベセスダに本社を構えるリクイディティ・サービシズ(Liquidity Services)のような業者に引き渡している。こうした引き取られる商品は、「luxury lost cargo(ラグジュアリな紛失貨物)」や「shelf pulls(売り場からの撤去品)」などと呼ばれることもある。