ライフスタイル

2022.11.03 18:00

湖北の食文化を新しい感覚で 「SOWER」を率いるシェフの夢

若きアメリカ人シェフ、コールマン・グリフィン氏


リニューアルを手掛けたのは、食の力を通して地方創生に取り組む「H3 Food Design」。代表の菊池博文氏は、デザイナーの柳原照弘氏とともにオープンキッチンを全面改装していったが、完成が近づくにつれ、二人とも「このキッチンから繰り出される料理は、ナチュラルなニューノルディックだよね」、という気持ちから離れられなくなったのだと言う。
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人づてにグリフィン氏の所在を知り、たった一度、オンラインでミーティングしただけだったが、シェフは彼しかいないと心が決まり、グリフィン氏も、オファーを快諾した。

グリフィン氏はその時の気持ちをこう振り返る。

「一望に琵琶湖が見渡せる、絶景の地に立つロテル・デュ・ラク。湖水に面に開かれたダイニングの立地を見て、即決しました。そこで自分が料理長となり、パートナーのキャシーがサービスをするという、私達が目指すスタイルを実現する理想的な環境に思えたんです。古い伝統を備えた新たな土地で、自分の可能性を試せることにワクワクしました」
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2022年4月のオープンに向けて、2021年6月には滋賀に居を移し、早速生産者巡りを始めた。元来、グリフィン氏は、料理のクオリティの一つは、生産者との距離の近さが決めるものと考えていたという。近隣の素材を使って料理をすれば、鮮度がいいだけでなく、フードマイレージも限りなくゼロに近くなるからだ。

例えば、漁港からの魚の運搬にも発泡の保冷箱を使用するのをやめて、プラスチックの番重を通い箱にすることができる。ゴミを可能な限り減らそうという取り組みだが、これも生産者とレストランが近いからこそできることだ。



「最初は日本語のしゃべれないアメリカ人が、農家や漁師さんの前に現れて、食材の話をあれこれ聞くものだから、皆、驚いたと思います。でも、どの生産者も、親切に、惜しみなくいろいろなことを教えてくれました。素材のクオリティの高さに加え、土地への愛情も伝わってきて、それを料理に込めて、ゲストに伝えたいと思ったんです」

飲料も含め、現在ですでに27の生産者と取引を行っている。

日本人はえてして、日本人の握った鮨意外は、江戸前鮨でない邪道であるという考え方をするが、フランス人は、世界各地で、その地の食材を使って作るフランス料理を認め、認めることにより、フランス料理の普及を目指すという考え方をしてきた。

そこには植民地を持ってきた国と島国の違いが如実に表れているが、アメリカの若者が鮒ずしを造る日がきたら、それもまた、素晴らしいではないか。グリフィン氏は、その魅力を広める伝道師となりうる可能性をおおいに秘めている。
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文=小松宏子 写真=Max Houtzager

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