いまあるシステムの中で“最善の選択肢”を
Zero Foodprintの創設は2015年。創設者のアンソニー・ミントとカレン・レイボヴィッツ夫妻は、タコスの屋台を借りて始めたアジア風サンドイッチのフードトラックを、サンフランシスコのポップアップストア、さらにはニューヨークにも店を構えるアジアレストラン「Mission Chinese Food」にまで成長させた敏腕シェフ兼経営者です。ふたりの著書『Mission Street Food』は米国でベストセラーとなり、レストランは3時間待ちの列ができるほど人気を博しました。
そんなふたりが食と気候変動の関係に関心をもったきっかけは、娘の誕生でした。幼い子どもの将来を憂いたふたりは、食が地球に与える影響を少しでも抑えようと、サステナビリティをコンセプトにしたレストラン「The Perennial」をオープンします。
その内容はかなり実験的なものでした。床のタイルはリサイクル品で、氷の使用は最小限。紙のメニューは堆肥化され、ミミズの餌となり、ミミズはやがて魚の餌となり、アンモニアを含んだ魚の排泄物はレタスやエディブルフラワーの肥料となるという徹底ぶりです。生産過程で多くの温室効果ガスが発生することで有名な牛肉は、リジェネレイティブアグリカルチャーを実践するマリン郡の牧場と提携して調達しました。
しかし、やがてふたりは自分たちの取り組みだけで起こせる変化に限界を感じ始めます。代わりにふたりが考えたのが、フードシステムそのものを変えられる方法でした。
「言うまでもないことですが、シェフやレストランは多忙であり数時間、数週間先のことを考えるのが精一杯です。20年先のことを見通すことはしないでしょう」と、ミントは飲食店経営者向けの雑誌『FSR magazine』のインタビューで振り返ります。
「自分の客、そして地球に対して最良のことをしようとは考えていても『フードシステム全体を変えよう』『食べ物の生産方法を変えよう』なんて考える人はほぼいないのです。みな、いまあるシステムの中で“最善の選択肢”は何かを考えています」。ならば、最良の選択肢を増やせばいい──ふたりはThe Perennialを閉店し、代わりにZero Foodprintを設立しました。