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2022.10.19 12:00

サンゴを生物多様性への影響評価のモノサシに

CEOの高倉葉太(写真左)と COOの竹内四季(同右)

CEOの高倉葉太(写真左)と COOの竹内四季(同右)

持続可能な社会に向けて、「脱炭素」の次に来るといわれているテーマが「生物多様性」だ。ここにどう取り組むかが、日本企業の将来の明暗を分ける。


2022年2月16日の夜、大小さまざまな水槽が並ぶオフィスで、CEO高倉葉太、COO竹内四季らイノカのメンバーはささやかな祝杯をあげた。サンゴの人工産卵を確認できたからだ。
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これまで海水を使って飼育したサンゴが産卵した事例はあった。一方、イノカはろ過した水道水に塩分やミネラルなどを溶かして、水槽内で人工の海を再現。通常の産卵期は6月だが、温度を調節して時期もコントロールした。完全人工環境下でのサンゴ産卵は世界で初めてのケースだ。

ただ、イノカはサンゴの養殖工場を目指しているわけではない。人工産卵の先にあるのは、生物多様性の指標づくりだ。いま世界では自然資本や生物多様性に関する枠組みづくりが進んでいる。21年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足。すでに気候変動による財務リスクを開示するTCFDに賛同する企業は少なくないが、TNFDはその自然版イニシアチブで、自然関連リスクが財務に与える影響を開示するよう企業に求める。

TNFDに賛同して情報開示するには、自社が抱える自然関連のリスクや機会、そして自社の製品が自然に与える影響度を客観的に評価しなければならない。そのモノサシのひとつになりうるのがサンゴだ。高倉はこう解説する。
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「海洋生物の25%が住処としているサンゴ礁は、いわば海のインフラ的存在。一方、サンゴは環境に影響を受けやすい繊細な面がある。サンゴが元気に育つ海は、生物多様性が高い海といっていい」

ただ、自社製品がサンゴに与える影響を海で直接検証することは難しい。自然環境下は天候の影などできれいなデータが取りづらいうえ、負の影響があった場合は環境破壊につながってしまう。そこで活躍するのがイノカの環境移送技術だ。

「IoTを活用して沖縄と同じ海を水槽内に再現しています。例えばそこに、海外のリゾート地では禁止されている日焼け止めクリームに使われている物質を入れれば、サンゴの健康状態からその物質が生物多様性に与える影響度を定量的に評価できる。この方法なら比較対照試験も可能だし、環境に負荷を与えることもありません」

評価できるのは海で直接使う日焼け止めクリームのような製品に限らない。洗剤のように生活排水から流れこむ消費財、タイヤの粉塵に含まれるマイクロプラスチックなど、海洋に影響を与える可能性がある製品や素材は多い。これらを扱う各業界のリーダー企業がサンゴ試験による評価を導入すれば、それがデファクトスタンダードになって環境移送技術が一気に広がっていく。それがイノカの描く青写真だ。
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文=村上 敬 写真=平岩 享

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