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2023.01.25

航空もDX!「パイロットは飛ぶだけではない」 自分たちでつくった「訓練評価システム」とは

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DX推進はアウトソーシングすべきか否か。その命題のひとつの回答となるのが、JALのパイロット自らが開発を手がけたローコード開発ツール「Claris FileMaker(クラリス ファイルメーカー)」を活用した安全運航のための改革だ。その奏功に見る可能性とは?


2010年に経営破綻した日本航空。そうした苦境下においても「安全運航への追求」は欠かせない。そのとき大胆な革新のために立ち上がりデジタル化を先導したのは、実際に飛行機を操縦していたパイロットだった。

先鞭をつけたのは、日本航空運航訓練部 A350訓練室に在籍し、機長も務めていた和田尚だ。破綻を改革につなげるために彼は自ら勉強会などに参加し、ローコードでの開発を可能にするツール「クラリス ファイルメーカー」を学んだ。そして現役パイロットの訓練評価を効率的に行うシステム「JAL CBCT(Competency Based Check and Training)」(以下、CBCT)を内製で生み出したのである。

今回は、和田から数えて3代目、約10年にわたり改革のけん引役を務める、日本航空運航本部 運航訓練部 訓練審査企画室室長の京谷裕太と、ともに訓練審査企画室 マネジャーとして改革に尽力しているIT畑出身の池下晴美に、いまなおアップデートし続けるJALの内製DXについて聞いた。

パイロットが求めたDX、その背景


「会社としてどんな苦境にあったとしても、安全な運航は決してなおざりにできるものではないとパイロットなら誰もが考えています。そうした安全運航を実現するために不可欠なのが、定期的な現役パイロットに対する訓練です。しかし約2,000人のパイロットが行う年4回の訓練を紙ベースで管理し、その結果を分析したうえで施策に反映することは、ほぼ不可能でした」(京谷)

JALフィロソフィの名のもと、続々と打ち出される経営再建の施策。この逆境を和田は変化するチャンスととらえ、自ら開発したCBCTを導入し、航空現場のDXを進めた。そのスピリットを引き継いだ京谷は、CBCTを以下のように説明する。

「CBCTは、コンピテンシー(業務遂行に高い能力を発揮するハイパフォーマーの行動特性)をもとにした、パイロットのための人材開発システムです。安全な運航が可能なパイロットの行動プロセスを分析し、細分化・明文化し、評価フィードバック項目に設定しています。

かつてこうした訓練は、テクニカルな操縦技術やシステム故障対応が中心でした。しかし時代によって求められる能力も変わってきます。グローバルの見地から見ても、適切なコミュニケーション、認知、意思決定など、ノンテクニカルスキルに注目が集まっています。そうした新たな流れに対応したのがCBCTシステムなのです」

具体的には、教官がiPadにインストールしたCBCTアプリケーション(ClarisFileMaker Go)で、離陸から着陸までのパイロットの行動を評価していくのだという。

「CBCTで蓄積した膨大な評価データをデジタル管理することで、さまざまなことが見えてきます。より効果のある訓練、評価を実現するにはどうすればよいか。

デジタルで見える化することで、各々の能力を把握しやすくなり、インストラクターによる評価の違いも見える化され、それが評価者自身の気づきにつながり、結果としてバラツキが少なくなってきました。何よりも、よりよい訓練のためにどのような項目を追加していくべきかを考えるうえでのインスピレーションを得やすくなりました」

つまりCBCTは現場の意見を吸い上げて可視化し、施策につなげていくDX推進ツールなのである。

「しかもCBCTは、特別な知識の必要がないローコード開発が可能なファイルメーカーを使用しているため、さまざまな意見を、私たちパイロットが自分たちの手で、実際の項目としてアジャイルに実装することができます。もちろん何が安全のための正解か、誰にもわからないので、CBCTは現場のニーズや状況に合わせて、常にアップデートし続けています」

小さなブラッシュアップは日常的に反映し、毎年大きなアップデートも行っていると京谷は言う。現在、開発担当者は5人体制で業務にあたっているという。


「JAL CBCT」内製の理由と可能性


ではなぜ、そのシステムは内製でなくてはならなかったのか。池下が当時の状況を説明する。

「破綻当時は経理部にいたのですが、とてもシステム改革に予算が割けるような状況ではありませんでした。業務の性質上、社外秘の項目も多く、アウトソーシングは現実的に不可能でもありました」

しかしその後、池下は、運航訓練部に異動して実際にCBCTを使ったことで思いを改める。

「通常IT開発プロジェクトは年単位の時間を必要とします。社内IT企画部門を通して外部開発企業にニーズを伝える必要があるからです。さらにシステム改修のたびに開発費用も発生します。

しかしファイルメーカーでの開発であれば、自分たちの手で瞬時にシステムの補修や追加・反映ができます。つまり社内でアジャイル開発が可能になってしまうのです。これはJALとしてのケイパビリティの向上に直結するものでした。新しい訓練を評価するシステムを新たに開発するには、内製が最適だったのです」

さらにこの取り組みは、彼らをDX人材として成長させていくと池下は言う。

「運航訓練部に着任するまでは、パイロットと直に接する機会はなく、遠い存在と感じていました。いまは非常に近しく、同じチームだという連帯感が強まりました」



「こうした地上勤務を経験すると、“パイロットはシステム開発なんてやるものではない”と考えていたかつての自分を恥ずかしく思います。いまでは“パイロットは飛ぶだけではない”と強く思うようになりました。もともとパイロットは、交代勤務なので内外の交流が少ないのです。それがDXを推進していくなかで米国や日本のファイルメーカーのカンファレンスに参加するなど、さまざまな分野の人々と交流する機会が増えて、世界を大きく広げることができました」(京谷)

社内に広がるポジティブエフェクト


こうしたパイロットから始まったDXは、社内外に拡大していると京谷は語る。

「19年からは、客室乗務員の一部もファイルメーカーの研修を受講し、非常救難訓練に関するシステム開発を行うなど、社内でも広がりを見せていて、約7,000人の客室乗務員がDXに触れています。社外でもまずはグループ会社にCBCTを展開しており、もちろんその先にはグループ外を含む、空の安全にかかわるすべての企業と連携していきたいと考えています」

JALの内製DXは着実に成功曲線を描いている。池下がさらなる改善を見据え、自戒の念を込めてこう語ってくれた。

「いかにデータ活用・分析能力を向上させられるか。JALがこの先、データドリブンカンパニーとして成長できるかの鍵となるはずです」

Claris
https://content.claris.com/ja/fj
 
京谷裕太(きょうや・ゆうた)◎1992年日本航空に入社。2006年に機長に昇格し、09年よりフライトインストラクター。ボーイング767型機に乗務しながら訓練システム開発も担う。

池下晴美(いけした・はるみ)◎日本航空運航訓練部 訓練審査企画室にて、マネジャーを務める。

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎私を覚醒させる言葉」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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