世界が概ね日常に戻り、新型コロナに対する警戒を緩め始めたた今、過去2年間ほとんど影を潜めていたインフルエンザが戻ってきつつある。
インフルエンザは1年のどの時期にも感染するが、一般にそのピークは冬季だ。つまりこれは、ピーク時期が南半球(6、7、8月が冬)と北半球(12、1、2月が冬)で交互にやってくることを意味している。
最近、南半球のインフルエンザシーズンの重大度が、北半球における重大度の指標になるかもしれないと一部の専門家が指摘している。
著名な科学ジャーナリストであるメリンダ・ウェナー・モイヤーの発言がNew York Timesに引用されている。
「私たちは南半球で何が起きたかを見ることができます。通常当地のインフルエンザ流行期は、私たちの流行が始まる頃に終わります。そして、南のインフルエンザ流行がかなり悪かったことは、私たちにとってよい前兆ではありません」
微生物学者のキャサリン・ウー博士は、この考えについてさらに掘り下げた意見をThe Atlanticの最新記事に書いている。「The Strongest Signal That Americans Should Worry About Flu This Winter(今冬のインフルエンザについて米国が最も心配すべき兆候)」と題したそのレポートは、オーストラリアで2022年に発生したインフルエンザ症例の数が「ここ数年で同国最大級」であったこことを報告している。彼女はこれについて「これは北にいる私たちにとって決してよい兆候ではありません」なぜなら「南で流行の原因となったウイルスは、ここ北半球で流行を生じさせるウイルスと同じものだからです」
とはいうものの、私にはよくわからない理由がある。
この考えには主張が2つあり、どちらにも議論の余地がある。1番目の主張は、南半球が2022年に「この数年で同国最悪」という「かなり悪いインフルエンザ流行期」を実際に経験したというものだ。2番目の主張は、2つの半球で実際につながりがあるというものでこれを先行指標仮説と呼んでおきたい。実際、どちらの主張の証拠もかなり希薄だ。
世界保健機関(WHO)の世界インフルエンザプログラムのデータは誰でも自由に入手できるので、私たちも見ることができる。
オーストラリアにおける2022年の検査室診断の数が過去最高だったのは真実だ。
オーストラリアで2021~2022年に検査室でインフルエンザ陽性判定された症例数(世界保健機関の世界インフルエンザプログラム)
しかし、インフルエンザが多かったことは、この事実を説明する可能性の1つにすぎない。たとえば、検査数が増えただけという説明も成り立つ。それは、何かを探せば探すほど、それがたくさん見つかるということだ。インフルエンザはオーストリアで国に届出義務のある疾病だ。これは、検査が実施されると、結果が必ず台帳に記録されることを意味している。受動的サーベイランス方式によるこの種のデータは、検査頻度の変化の影響を受けるため、解釈が難しい。新型コロナの存在を踏まえると、オーストラリアの医療従事者が、2022年に従来よりも積極的にインフルエンザの検査をしたと考えるのは理にかなっている。