森の中で「水の循環」をあじわうフルコース 諏訪綾子と地元シェフがコラボ

石川県白山市で開催された「QINO Restaurant」

10月はじめの週末、石川県の霊峰白山麓に2日間限りの「特別なレストラン」が誕生した。しんとした森の中で木漏れ日を浴びながらフルコースを味わう、贅沢な食体験だ。

手元に届いた招待状には、「ドレスコードは長靴」「お出迎えは軽トラ」「メニューは100年に1度のテイスト」と風変わりな文言。主催者からは「森でお会いすることを楽しみにしています」と、メッセージが添えられていた。

一体どんなレストランなのか──。実はその裏にある目的は、県内最大の河川・手取川の流域で貴重な水源地である白山の環境を守ること。東京のクリエイティブ会社fabriqと白山市の住民らが連携して立ち上げたプロジェクト「QINO」の一貫として企画された。

その名は「QINO Restaurant(キノレストラン)」。主宰の高平晴誉らが同県出身のフードアーティスト・諏訪綾子とともに2020年から構想を練り、今年初めて一般向けのテーブルが実現した。

木の新しい使い道を発明するために


金沢駅から車に揺られること約60分、会場となる“森”に到着した。ここは、QINOプロジェクトの一員でもあるアロマ蒸留所の「EarthRing」が管理する場所。戦後復興のために植えられたスギやヒノキなどの針葉樹がうっそうと生い茂る、静かな森だ。

案内に従って林道に入って行くと、少し開けた場所に軽トラのウェイティングバーが出現。そこでは、樹木のドリンク「QINOSODA(キノソーダ)」をつかったカクテルが振る舞われた。キノソーダは、スギの間伐時に一緒に切って捨てられることの多い「クロモジ」という落葉樹を活用した炭酸水で、植物や柑橘、茶葉のような香りが特徴だ。



カクテルを楽しむ間、造林業を営む白峰産業の尾田弘好さんが、白山麓の歴史を教えてくれた。戦後の「拡大造林政策」で人工林となった周辺の山は、日本の木材自給率“9割以上”の達成に貢献したものの、価格の低い外材の輸入自由化の影響で需要が減り、現在はほとんど利用されていないのだという。

周りを見渡すと、適齢期を迎えたものの需要がなく、生えっぱなしになっている木がたくさん。そのままにしていては、下草が生えず土壌が失われて土砂災害の原因になったり、高齢の木ばかりで二酸化炭素の吸収量の低下につながったりと、様々なリスクが高まるのだそうだ。QINOプロジェクトは、そうした木の新しい使い道を発明、有効活用を促すことを目的に設立された。
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文=田中友梨

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