ビジネス

2022.10.18 17:00

「新しいフェアトレード」で業界をひっくり返す 雪ヶ谷化学工業の挑戦


早速、タイにある自社工場のスタッフを通じて天然ゴム農家の実地調査を行った。そして、自社の天然ゴム製品には公平・公正な貿易を手がけているタイの現地企業の原料のみを使うと決めた。日本で流通する天然ゴムすべてをフェアトレードにするために坂本は動き始める。

21年5月には、フェアトレードの天然ゴムを使った製品なら企業や製品ジャンルを問わず使える「フェアトレード天然ゴムマーク」を公開した。マークの要件には、

1.天然ゴムの生産現場で強制労働や児童労働が行われていないこと

2.すべての生産者に公正な対価が支払われていること

3.安全で健康な労働条件が守られていること

を掲げた。22年5月末時点で4社がマークの使用を決定し、3社はすでにマーク付きの商品を販売している。

しかし、化粧用スポンジで圧倒的なシェアを誇る企業がなぜ、あえて市場のルール形成に取り組むのか。そう聞くと、坂本はこう答えた。

「取引先の声に応じるだけでは、いずれ定型的なスポンジを安価に生産する海外企業にシェアが奪われるのは目に見えています。安くつくることと、途上国の労働力の搾取はコインの裏表です。それを許すことは経済格差を深刻化させるばかりか、自社の存在価値を脅かすことにもつながります」

だからこそ、高い技術力と発想力をもち、ユニークネスをかたちにできる企業が有利になるよう自ら新たなモノサシを示す。そして、少し高くても社会的に価値があるモノの市場を築き上げ、業界の常識そのものを変える。坂本が描く経営戦略だ。

「ルールメイキング側に立つことで、競合他社は絶対についてくることができなくなる。この方向性を見いだしたときは、『よっしゃ』と思いました」

業界のゲームチェンジャーになる


雪ヶ谷化学工業は、先代の坂本光彦が率いるころからボランティアを通じて社会貢献に取り組んできたと坂本は言う。だが、「親父の場合は完全に趣味。私の場合は、人に認めてもらいながら商売に乗せなければいけないという思いがありました」。

とはいえ、今回のルールメイキングでは社内外を巻き込むことの難しさも味わった。19年末からSDGs活動に全力で取り組む企業へとかじを切ったが、まずぶち当たったのが社内の壁だった。
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文=瀬戸久美子 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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