代官山で50年以上、東京的癒やしの味を伝える定食屋「末ぜん」

定食屋「末ぜん」

代官山駅から徒歩数分。周囲とは趣の異なる瓦葺き日本家屋の玄関先に、えんじ色の渋い暖簾が掛かっている。「末ぜん」。

店内奥の座敷で名物のさば塩焼定食をいただきながら、3代目主人の堀井健太さんに話を訊いた。


渡辺真史◎1971年、東京都生まれ。ベドウィン&ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。

渡辺:いや〜、今日もしみじみ美味しかった。僕の大好きなタラコも出してくれてありがとう(笑)。

堀井:毎度ありがとうございます。

渡辺:昔から、訓ちゃん(野村訓市)や熊谷くん(熊谷隆志)らと通っているけど、そもそもこの店は何年目?

堀井:1968年開業で、もう50年以上経ちます。もともとは、戦争から戻ってきた祖父が始めた定食屋なんです。

渡辺:堀井くんが生まれるずっと前か。

堀井:今では考えられないのですが、当時はこの辺り一帯が畑で、自然が多かったんです。ウチが建つ4年前にレストランの小川軒が移転してきて。

渡辺:へ〜。先代のお爺さんから代官山の歴史を見てきたわけだ。

堀井:自宅と店がつながっていて、学校帰りに店を通って家に戻る感じでした。その頃は常連さんから、おやつに枝豆を分けていただいたりして。



渡辺:堀井くんが店に立つようになったのはいつから?

堀井:小さい頃から皿洗いなどの手伝いはしていましたが、店を継ぐことを考え始めたのは24歳のときです。その後、この店で2年、他店でも1年半ほど修業して調理師免許を取得しました。

渡辺:今は2代目のお父さんと一緒に調理場に立っているよね。

堀井:はい、市場への仕入れも一緒です。僕と違って物静かな父ですが、とても尊敬しています。まだまだ教えてもらいたいことがたくさんありますね。

渡辺:いいなあ。そんな素敵な関係から、決して派手ではないけどジワッと効いてくる“末ぜんの味”が生まれているんだと思う。お父さんとお爺さんも、きっと仲が良かったんでしょう。

堀井:そうかもしれませんね。ただ、僕は父とは違ってお客さんとのコミュニケーションも楽しむようにしています。

渡辺:確かにそうかも。この店特有の優しさの一方、少し賑やかさも感じるようになった。畳や手書きのメニュー、古い子供用の椅子があって。佇まいは変わらないけど、店主の新たな気持ちは自然と伝わるのかもしれないね。

堀井:ただ、そんなに店を変えるつもりはないんです。僕はこの味をずっと守っていきたい。小さい頃から可愛がってくれた昔からの常連さんに今も来店いただける幸せを、次の世代にもつなげていきたいですね。

渡辺:それは、そのお客さんにとってもすごく幸せなことだと思うし、やっぱりみんなの胃袋を掴んでいるんだね。本当に愛されてるな〜。

──変わりゆく街で、変わらずにある店。実に東京的な癒やしの味を、明日も若き3代目が伝えていく。

「末ぜん」
住所:東京都渋谷区猿楽町20-8
電話番号:03-3461-8234
営業:11:00〜14:00、18:00〜20:30(土曜日は14:00まで) 日曜・祝日定休

(この記事はOCEANSより転載しています)

写真=若木信吾 文=増山直樹

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