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2022.10.31 16:00

DX推進に必要なのは「ビジョン」と「対話」〜コンカー主催「Forbes JAPANと考える中堅中⼩企業のDX推進におけるビジョン」

コンカーは9月8日、中堅企業で企業変革をリードする経営層を対象に「SAP Concur Executive Program」を開催した。セッションのひとつ「Forbes JAPANと考える中堅中⼩企業のDX推進におけるビジョン」にはメトロール代表取締役社長の松橋卓司、やまなし産業支援中小企業経営革新サポート事業統括マネージャーの内田研一が登壇し、Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香がモデレーターを務めた。そのディスカッションの模様をお伝えする。


2000年代初頭から攻めと守りのDXを進めてきたメトロール


精密位置決めセンサーを製造・販売するメトロールは、DX(デジタル・トランスフォ―メーション)という言葉がまだ存在しない頃からそれに取り組んできた。代表取締役社長の松橋卓司はまず、その取り組みの歴史について説明した。

「2000年代初頭から海外向けに、インターネットで製品や技術の紹介を始めました。日本では手形や口座振込が当たり前の時代でしたが、そういうものにとらわれずに海外の企業と取引ができないかと考え、クレジットカードによる電子決済を導入したのです」

同社は現在、70カ国以上で販売し、海外だけで3,000社と取引をしている。

事業の根幹となる生産現場でもDXを進めてきた。リーマンショック後の09年、生産管理システムとしてMRP(資材所要量計画)を導入。それまでは協力会社にFAXで部品を発注し、在庫管理も人がやっていたが、システム導入により、設計も製造も一元管理するようになった。

16年には会計管理にクラウドを導入したが、それは同社にとって当然のことだったと松橋は振り返る。

「当社では、11年から現金取引をしていません。営業は世界各国に出張に行きますが、現地ではすべてコーポレートカードで決済してきました。その利便性を実感していたので、クラウドへの移行にまったく抵抗がありませんでした」

その後も同社のDX推進は止まらず13年には数値制御(NC)を搭載した5軸加工機を導入し、21年には給与明細を電子化した。こうした一連の施策により利益率は向上し、21年の従業員1人あたり利益は、08年の12倍に達したという。ただし松橋は、DXの目的は単なる効率化ではないと強調する。

「DXに取り組んできた最大の理由は、まだ世の中にない、付加価値があって競争力のある製品を開発するためです。例えば当社が開発したエアマイクロセンサーは、世界で唯一、1ミクロン単位の位置決めを繰り返せるセンサーです」

まずビジョンがあり、同社はそれを実現するためにDXを進めてきたのだ。それには組織のあり方も考える必要があると松橋は言う。

「従来のいわゆるヒエラルキー型からネットワーク型の組織に移行し、技能のある社員と共感をベースに対話しながら新しい製品を開発していく必要があります。個人で思考するのではなく集団思考でないと、現代の複雑系の製品は開発できません。ただこの対話型のオペレーションは、時間的にも心理的にも余裕がなければできません。そのためにDX化によって、力仕事や単純作業を軽減する必要があるのです」


松橋卓司 メトロール代表取締役社長(写真中央)

やまなし産業支援中小企業経営革新サポート事業統括マネージャーの内田研一は、こうした松橋の経営スタイルを「信頼経営」と表現している。

「ヒエラルキー型からネットワーク型の組織に移行するなど、社員を信頼して任せるための土壌づくりに手間をかけているように思います。他の経営で成功されている企業もそういう努力をされているケースが多いのではないでしょうか」


内田研一 産業支援中小企業経営革新サポート事業統括 マネージャー

若い世代の声に耳を傾けることが大事


中小企業や中堅企業のなかには、企業文化や体制が硬直しているがゆえにDXが進まないという企業も多い。そうした課題をどう解決したらいいのかーー。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香の問題提起に対し、松橋は、「経営者が時代の流れを認識することが大前提」と断ったうえで、若い人の声を聞くことの重要性を訴えた。

「私が入社した1998年当時は、ちょうど旋盤工の名人といわれた職人たちが引退する時期でした。それで若い人に『ああいう職人になりたいだろう』と聞いたら、『いや、なりたくないです』と言われ、驚きました。戦闘ロボットのような巨大な機械をプログラムで動かすことが、彼らの願望だったのです。それを実現していくことがDXにつながりました。世代交代のなかで新しい人に耳を傾けると、仕事に対する幸せや充実感が旧世代と違うということがよくわかります」

一方内田は、「多くの企業のコンサルティングをしてきましたが、いかに人間の意識を本来の目的に向けていくかが重要だと考えます」と指摘したうえで、山梨県の企業「テクノクリーン」の事例を紹介した。

「テクノクリーンは、クリーンルームで着用するウェアをクリーニングする会社です。この会社は10年前、業績がよくなかったのですが、当時、融資をしていた銀行の担当者だった若尾剛さんが惚れ込み、銀行を退職して社長に就任してから変わりました。ウェアをバーコードで管理するなど、DXを進めながら業務フローを改善したのです。それがV字回復につながりました。彼らは企業が面倒くさがることを請け負い、自分たちの業務をDXしながら、お客様へのサービスもDXする。その両輪で進めていった結果、ビジネスが非常に良い状態になっていったのです」

企業文化や体制を変えていくためには、社内と顧客の両方に目を向ける必要があるというのだ。こうしてDXを推進していくと、社内の空気も変わると内田は指摘する。

「松橋さんの会社にもときどき伺いますが、テクノクリーンさんと共通しているのは、皆さんが生き生きと働いていることです。やりたくないことをやらなくてすむのが、DXの効果の一つです」

それに対し松橋は、若い人の労働観からするとそれは必然であり、「人間はクリエイティブな仕事だけをやるべきだ」と指摘する。

「昔と違い、人的労働の投入が制限されています。そうした中でいかに付加価値のある仕事に取り組んでいくかを考えると、ルール性のある繰り返し作業を自動化するしかありません。アドリブで考える仕事だけが人間に残るようにしないと、もはや会社が回っていかないのです」


谷本有香 Forbes JAPAN Web編集長(写真左)

業務改革への不安を取り除くことがDX推進の鍵


いざDXを推進しようとしたところ、社内に反対勢力がいるケースも少なくない。そうしたなかでどうすればDXの必要性を理解してもらえるのかーー。松橋は、「不安を取り除くことが大事だ」としたうえで、改めて対話の重要性を強調した。

「業務改革できない最大の理由は『不安』です。わずかな確率でしか起きないような事故でも、『起きたらどうするんですか』と言ってくる人が必ず出てきます。それに対して経営側が『あなたのキャリアを広げるためのひとつの挑戦としてやってみないか』と呼びかける対話が必要なのです。弊社では経理でパターン仕事をしていた社員が、DXによって財務分野もカバーできるようになり、売り上げ予測から銀行との交渉をするまでに成長した例もあります」

対話をするにしても、そもそもDXをどこから始めていいかわからないという声も多い。「管理部門からはじめるのが早いという声をよく聞くが、それは正しいのか」という谷本の問いに対して、内田はそれを肯定したうえで、「いまはシステムを導入しやすい環境になっている」と強調した。

「とにかくやってみることじゃないでしょうか。例えば会社全体に一気に統合システムを導入するのではなく、一部の業務や小さなグループでやってみて、それがうまくいったら拡大していく。スモールスタートだと、DXも手がつけやすいです」

松橋は内田の発言に同意したうえで、経費精算のクラウド導入を例に挙げて時間軸が変わるメリットを指摘した。

「クラウドを入れると1人の経費精算が数秒で終わるので、申請するほうも管理するほうも非常に楽です。重要なのは溜めないこと。リアルタイムに分散処理することによって、間接部門の肥大化が起きないようになるのです」

最後に谷本が「DXに取り組まなければ生き残っていけない時代になっている」と警鐘を鳴らしたうえで、こう締めくくった。

「松橋さんがおっしゃったように、自分たちの存在意義やどのような方向性で進んでいくのかを経営陣が腹落ちするように社員と対話し、その目的のためにDXという手段を使い、企業の発展に結び付けていただきたいです」





松橋 卓司(まつはし・たくじ)◎メトロール代表取締役社長。大手食品メーカーなどを経て1998年、メトロール入社。創業者であり技術屋である父を若い発想と営業力で支え、海外市場におけるウェブ直販体制を確立。DXを推進してきた。2009年より現職。

内田 研一(うちだ・けんいち)◎やまなし産業支援中小企業経営革新サポート事業統括マネージャー。システム会社、経営コンサル会社などを経て2007年より経産省地域活性化支援事務局ジェネラルマネージャーとして関東で約800件の事業一次審査を担当。経産省などの委員を多数歴任。




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