小暮昌弘(以下、小暮):このコート、素敵ですね。ブランドはどこですか?
森岡 弘(以下、森岡):1856年創業、英国を代表するラグジュアリーブランド、バーバリーの新作コートです。
小暮:トレンチコートをデザインしたことで知られる老舗ですね。あのコートは第1次世界大戦に従軍した将校用にデザインされたものです。この間、『1917 命をかけた伝令』(2019年)というこの戦争を舞台にした映画を観ました。兵隊たちは軍服姿でしたが、将校らしき人はトレンチと思われるコートを着ていました。でも今回紹介するのはトレンチではなく、日本流にいえば、ステンカラー。正式にはバルカラーコートと呼ばれるモデルです。
森岡:そうなんです。普通に見れば、どこか変わっているという感じはしないかもしれませんが、これは「カムデン カーコート」と呼ばれるモデルで、同ブランドの「モータリングヘリテージ」に根差したモデルです。
小暮:だからモデル名にも「カーコート」と入っているわけですね。
森岡:素材が伝統のギャバジンですが、「トロピカルギャバジン」というしなやかな生地が使われていて、とても軽やか。
小暮:実際、持ってみると軽量ですよ。
森岡:「カムデン」フィットと呼ばれる細身のシルエットなので、着る人をスマートに見せてくれます。
小暮:フロントが比翼仕立てなのですっきりと見える。それでいて、肩はラグランスリーブなので中に重ね着しても快適です。
森岡:もしかしたらトレンチよりも日本の紳士にはこちらのコートのほうが、なじみがあるのではないでしょうか。ビジネスでもカジュアルでも使いやすい。
小暮:HPの紹介を見たら、ベースボールキャップやスニーカーをこのコートに合わせています。こんなスタイルにも使えるのですね。さすが、コートづくりに長い歴史をもつ老舗だけのことはありますね。
森岡:私は2000年代からバーバリーのコレクションを見てきました。バーバリーはコレクションラインでもモダンには見せるのですが、突飛なモード感を出しません。
小暮:それは前にチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めていたクリストファー・ベイリーでも、現在のリカルド・ティッシでも同じかもしれません。バーバリーというブランドの立ち位置を理解しながら、モダンなスタイルを生み出し続けている。