そして、リスクに対処したり、あるいは社会実装を促進したりするためにも、制度やルールが必要だ。ガバナンス(統治)のあり方にも目を向けなければいけない。既存のガバナンスを遵守するだけでなく、新しいテクノロジーに応じた新しいガバナンスのあり方を自分たちで考え、市場や社会規範などを含めてルールをアップデートしていく視点が重要だ。
最後のセンスメイキングは納得感・腹落ちという意味だ。発信する側の主観ではなく、受け手に腹落ちしてもらうためのコミュニケーションを取ることで、よい関係を保ちながら巻き込んでいける。
リスクと倫理、ガバナンス、センスメイキングを進めていくときにも、目指すべきインパクトが優れているどうかが、人々を巻き込んでいけるかどうかの明暗を分ける。社会実装はインパクトから始めるという視点をもつべきだろう。エアビーはこれらをうまくやり、ウーバーは残念ながら様々な視点は抜け落ちていたため、日本では社会実装に至らなかったと考えられる。
スタートアップの多くは新しい市場創出を行う。0から1を生み出すとき、または1を10にするときには、無駄を抑えながら仮説検証していくリーンスタートアップなどの方法論がいまでも有効だろう。
ただ、10を100に、100を1000にするときには、グレーゾーンを踏み抜くことも辞さないやり方は、もう時代遅れなのではないだろうか。この社会に広く浸透させる段階にあたっては、インパクトの提示や社会との対話、巻き込みによって、一緒にルールをつくっていくことだ。
テクノロジーのイノベーションと、ルールのアップデートによる補完的なイノベーション。この両輪をうまく回していくことが、20年代以降の新しい市場創出の近道なのだ。
馬田隆◎東京大学産学協創推進本部FoundXディレクター。University of Torontoを卒業後、日本マイクロソフトでのプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援に従事。2016年6 月より東京大学。著書に『未来を実装する』(英治出版)など。