メタバースだから実現した硫黄島の戦前を見て現在を体験できる仮想空間

硫黄島VR

強烈な歴史で覆われてしまった過去と共に、ありのままの現在を見る。エンターテインメントでの活用が注目されるVRだが、実は歴史を学び、体験するコンテンツとも相性がいい。そのことを強く理解できる仮想空間「硫黄島VR~忘れてはいけない~」が公開された。

東京都の、いや日本の東端に位置する小笠原諸島。約30の島々で構成されているその中には、第二次世界大戦末期の1945年2月19日から同年3月26日まで日本軍とアメリカ軍の間で熾烈な戦いが行われた、小笠原諸島最大の島である硫黄島がある。「硫黄島VR~忘れてはいけない~」は、この硫黄島をテーマとしたメタバースワールドだ。



VRヘッドセットをかぶり、国産VRメタバースのclusterから「硫黄島VR~忘れてはいけない~」にログインすると、戦争の影響が残っていのか、活火山の地であることを意味しているのか荒れた地面が一面に広がり、硫黄の香りが漂ってくるかのような錯覚を覚えるほどのリアリティを感じる。その中に、戦前に撮影された貴重な写真の数々が展示されている。よくよく見ると写真に映っている地形と、仮想空間内で立っている場所から見える地形が同じだ、ということがわかってくる。

戦前の硫黄島では硫黄採掘事業やサトウキビ、レモングラスの栽培が行われていた。海軍飛行場だけではなく、会社のオフィスも学校もあった。昭和15年(1940年)の島民数は約1000人。しかし戦争による空襲とともに強制疎開が実施され、誰もが生まれの地を離れることとなった。そして彼の地は焼け野原となり、仮想空間で見る景色からは建造物があったという気配は微塵も感じられない。

しかし、それでもあったのだ。ここには多くの人々の営みがあったのだ。

戦後、硫黄島はアメリカから日本に返還されるものの、原則的に基地関係者以外の民間人の立ち入りは認められておらず、現地で慰霊祭が開催される際も遺族でも渡島は抽選。また当時の島民は現在80~90歳の方が中心で、帰島の機会があっても健康面を考えると極めて困難な状況となっている。
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取材・文 = 武者良太

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