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2022.10.25 16:00

現役弁護士が生み出した契約DX 〜フェアな合意で社会をよりよくする「MNTSQ CLM」という仕組み

いまだに紙主体の煩雑な手続きが多い企業の契約業務。旧態依然とした仕組みにおいて、不平等な契約がまかり通ることも少なくない。
そこで現役弁護士のMNTSQ(モンテスキュー)CEO 板谷隆平が立ち上がった。彼が目指す“すべての合意をフェアにする”契約業務のDXとはー。


ビジネスに不可欠な契約行為。しかし企業法務の現場は、最終形態が紙の契約書であることが多く、DXが遅々として進んでいない領域だ。メール、Word、Excel のファイルが事業部間を何度も飛び交い、煩雑で時間のかかる確認作業が延々と行われる法務の現状は、デジタル化の波に取り残され続けてきた。

「問題は業務効率面にとどまらず、複雑な文言がゆえに担当者の理解が及ばずアンフェアな契約が締結されてしまうことなのです」

日本有数の総合法律事務所「長島・大野・常松法律事務所」で活躍する現役弁護士にして、MNTSQ CEOでもある板谷隆平は指摘する。今回は板谷が生み出したトヨタ、ENEOSなど日本を代表する大手企業が導入するSaaSプロダクト「MNTSQ CLM」の革新性について聞いた。

紛争を予見し、未然に防ぐための 「契約」システム


「弁護士となり、私が最も惹かれたのは、契約交渉でした。企業間の紛争を未然に予防できる契約書が、とても価値あるものに思えたのです。その一方で、実際に契約を締結するため、非常にレガシーで非効率、煩雑な業務が毎回行われていることに、驚きました」

さらに板谷は、世間の契約書には、その役目を果たせていないものが多いことにも驚いたという。

「予防策として機能していない契約書が、あまりにも多かったのです。また、複雑で難解な文言を使用しているために、専門性がないと適切な契約を締結できないという状況も問題と感じました」

そして板谷はひとつの転換点を迎える。

「私は当時、ある金融機関側の弁護士として、製品開発ベンチャーに対する貸付契約書の作成を担当しました。ハードな交渉・反論が巻き起こることを前提に、金融機関側に非常に有利な内容で契約書を作成したのです。しかしふたを開けてみると、ベンチャー側はこれといった反論なしに『信頼しておりますので、よろしくお願いいたします』と合意の握手を求めてきたのです。

“なんてことをしてしまったのだ”

ショックでした。自分が有望なベンチャー事業を壊してしまったかもしれない、と感じました。ベンチャー側は製品開発が仕事であり、難解な契約書からフェアではない内容を読み取って、ハードな契約交渉に時間をかけることに期待すべきではなかったのです。

専門性がないと、不利な契約を押し付けられてしまう。こうした契約がまかり通ってしまったら、有望な企業の芽も摘み取ってしまうかもしれない。自問自答する日々が続きました。その後悔がきっかけで、誰もがフェアな契約を結べる環境づくりを考えるようになったのです」

契約と自然言語解析AI技術のマッチング


近年は電子署名法や電子帳簿保存法など法的環境整備の影響もあり、電子契約がビジネストレンドとなっている。その変化について、板谷は次のように解説した。

「ポイントは、最終形態が電子データでもよくなったということです。電子的な手続きですべての契約が完了できることで、コロナ禍での“はんこ出社”などの問題も、不要になりました。つまり契約書は、紙の書類作成業務ではなく、電子データ作成業務に変化したのです。そのため、データをもとにシステムを新たに組み直す必要が生じました」

そうした契約の電子化による効率化とともに、板谷は“すべての契約をフェアにする”システムを構築したいと考えた。その方法を考えあぐねるなか、とあるAI技術との出合いが突破口になった。

「東大の友人でもあり、AI研究開発企業PKSHA Technology(パークシャテクノロジー)で自然言語処理部門を立ち上げた安野(現:MNTSQ社取締役)へ提案したところ、わずか一週間で原型となる“契約書を正しく理解する”AIをつくってくれたのです。複雑で難解な文言が特徴の契約書ですが、基本的に論理的な文章であり、自然言語解析AI技術と非常に相性がよいことが幸いしました」

この技術があれば、課題感をもつ弁護士が一つひとつ契約書をフェアに書き直しているうちに、数百万のアンフェアな契約が成立してしまうという、不幸な現状を打破できると、板谷は確信したという。


MNTSQ(モンテスキュー)CEO 板谷隆平

そして法律事務所に弁護士として所属したまま、板谷はMNTSQを設立し、CLM(契約ライフサイクルマネジメント/契約プロセスの自動化・合理化システム)の開発に取り組み、「MNTSQ CLM」を生み出した。

「驚いたのは法律事務所の方々が、情熱的にサポートしてくれたことです。トップローファームの一員でありながら、同じように不幸な契約が生じる現状に、危機感を抱いていたのです。

ともすると競合と捉えられかねない事業であるにもかかわらず、AIにしかできないこと、人でなければできないことをきちんと理解し、バックアップしてくれたのは、大きな支えになりました」

「MNTSQ CLM」がスタンダードになる日


リーガルテックを駆使したSaaSソリューション「MNTSQ CLM」がローンチされてから、1年10カ月がたち、導入社数は当初の8倍に増え、「TOPIX CORE30」銘柄のおよそ1/4が導入するまでに拡大した。その特徴について、板谷は以下のように語った。

「従来、契約に関するデータやシステムは業務や部署ごとに分散していました。これでは、自分たちがどのような契約をしているのかの全体を誰も把握することはできません。

その点、MNTSQ CLMは契約交渉から管理まで一気通貫のシステムを構築するので、データベースは共通です。すべての人間が同じようにデータを使うことができます。当然経営サイドもアクセスしやすくなり、契約リスクの把握も可能になります。契約内容については、自然言語解析AI技術を用いることで、社内の誰もが適切な契約書を作成可能になります。こうしたすべてがひとつになることで、企業は全体を見ることができるようになり、フェアな契約がもとになった事業成長を、実現できるようになるのです」

契約のないビジネスは、ない。フェアな合意が理想の社会をつくる


最後に、板谷に“すべての契約をフェアにする”ことで生じる社会的インパクトについて、将来展望とともに聞いてみた。

「現在は大企業中心の提供となっているMNTSQ CLMですが、契約はすべての人々にかかわる問題です。ゆくゆくは中小企業や個人まで、『MNTSQで契約交渉しているから大丈夫』と社会全体でいえるようなプラットフォームに成長させたいと考えています。

あらためて言えば、契約とは“合意”です。個人間の合意があり、企業間の合意があり、ひいては自治体、国家間の合意がその先にあります。国家間の合意がフェアなかたちで行われれば、争うことが不要になり、よりよい社会が訪れるでしょう。

MNTSQ CLMは、リーガルをバックグラウンドにもつ、世界初のSaaSソリューションとなります。したがって日本発でありながら、世界中の契約のインフラになる可能性も秘めているのです。なぜなら会計や人事などの制度・業務は違っても、契約業務に関しては万国共通だからです。すでに英語アルゴリズムは開発済みです。グローバルでひとつのプラットフォームで、世界の合意をフェアにする。それこそが私の実現したい目標なのです」



MNTSQ(モンテスキュー)
https://www.mntsq.co.jp/

板谷隆平(いたや・りゅうへい)◎長島・大野・常松法律事務所(NO&T)に弁護士として勤務する傍ら、2018年 11月に「すべての合意をフェアにする」リーガルテックサービス「MNTSQ CLM(モンテスキュー CLM)」を展開するMNTSQを起業。CEOに就任。

Promoted by MNTSQ, Ltd. │ text by Ryoichi Shimizu │ photographs byShuji Goto │ edit by Akio Takashiro