結局、ダイアナはエリザベス女王より遅れて最後に屋敷へ到着するが、そこでも王室のしきたりを強要される。ロイヤルファミリーが顔を揃えたイブのディナーの席でも、夫であるチャールズ皇太子(ジャック・ファーシング)との間には微妙な空気が流れている。席についた一同からも冷たい視線を感じたダイアナは、そのままパウダールームに籠ってしまう。
実はエリザベス女王がクリスマスに親族を勢揃いさせるサンドリンガムハウスはダイアナの生家の近くにあり、いたたまれなくなった彼女はパパラッチなどを警戒して厳戒態勢が敷かれる屋敷を抜け出し、かつてのスペンサー家へと向かう。しかし、そこはすでに老朽化で立ち入り禁止となっており、警察官によって制止されるのだった。
(c) Pablo Larrain 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED
このようにクリスマスを挟んだ3日間の出来事が、ダイアナの揺れ動く心情と衝動的な行動を中心に描かれていくが、冒頭で「実際の悲劇に基づく寓話(A FABLE FROM A TRUE TRAGEDY)」とクレジットされているように、どこまでが「実際の悲劇」なのかは詳らかではない。
むしろ、ダイアナのその後の運命を決定づける密度の濃いドラマとして、かなりオリジナルな要素が付け加えられているのは想像に難くない。
監督のパブロ・ララインは、1976年、チリのサンティアゴ生まれ。国内で映画監督としてのキャリアを積み、作品はカンヌ国際映画祭をはじめ海外でも高い評価を受ける。2012年には「NO」でアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされ、ナタリー・ポートマン主演の「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」(2016年)でハリウッドにも進出する。
「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」は、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディの夫人、ジャクリーン・ケネディにスポットを当てた作品。夫がダラスで凶弾に倒れた瞬間から葬儀を終えるまでの出来事を詳細に追い、人生のハイライトとも言える時間を描くことで、主人公が抱える真情を解き明かしたドラマだ。
まさに「スペンサー ダイアナの決意」で採ったのと同じ手法で、大統領である夫を喪った1人の女性を、限られた時間のなかに凝縮して描いている。ジャクリーン夫人がようやくホワイトハウスに戻り、夫の血のついた服を脱ぎ捨てるシーンなどが強く印象に残る作品だ。
ファッションも重要なアイテムに
「スペンサー ダイアナの決意」は、本年度のアカデミー賞でダイアナ役のクリステン・スチュワートが主演女優賞にノミネートされた。それだけに彼女が劇中で披露したダイアナへのアプローチには卓抜したものがあり、評価も高く、そのなりきり演技も作品の見どころの1つとなっている。
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